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第41話 狂乱のモデル撮影!

 徐々に大きくなっていく地響き。

 アリサや花枝、撮影スタッフらが表情を硬くして冷汗を浮かべる。


「な、何だ何だ……!?」

「ま、まさか、またイレギュラー!?」

「そんな頻繁にイレギュラーが起きてたまるか!」


 瑠奈はそんな中、不気味に口角を上げながらゆっくりと皆の前に出るように歩き始める。


「安心してください皆さん。イレギュラーじゃありませんよ~」


 どう考えてもただ事じゃない地響きがどんどん大きくなって言っているというのに、一人場違いに呑気な様子の瑠奈に、皆の視線が集まる。


「地面は空気よりも音をよく伝達させます。だから、地中にモンスターが生息しているダンジョンではよくあることなんですよ――」


 瑠奈がそう語る間に、地響きは最高潮に達する。

 まるで蠢く何かが自分達の足元まで来てしまったかのような感覚。


「――戦闘音を聞きつけた地中のモンスターが集まってくるのって」


 ドォオオオンッ!!


 皆の視線の先で地面に亀裂が走ったかと思えば、そこの地面が盛り上がり、そのまま何かが地中から飛び出してきた。


 それも、大量に。


 目算二十体弱。

 獲物の音を聞きつけて姿を現したのは、Cランクモンスター【サンド・ワーム】。


 体長は平均三メートルに達し、サメ肌のようなやや硬質な皮膚を持つ。目はないが聴覚に優れており、獲物の音を敏感に聞きつけて、顔面部分の大半を占める大きな口で捕食する。


「る、瑠奈ちゃんどうするつもりですの!?」

「どうするって……決まってるよ、アリサちゃん」


 アリサも薄々察してはいた。

 そのつもりでなければ、瑠奈はこの状況で前に出たりはしない。

 だが、それでも一応だ。一応聞いてみたのだが…………


「据え膳食わぬは何とやら、でしょ?」

「……そ、それをモンスター相手に使う人を初めてみましたわ……」


 瑠奈の笑顔に、どこか呆れたような表情を見せるアリサ。


 しかし、余裕たっぷりな瑠奈の様子は皆の緊張を次第に解けさせていった。


 花枝が恐る恐る瑠奈に尋ねる。


「瑠奈ちゃん、どう? あれ相手に撮影、出来そう?」

「あはっ、もちろんです」


 よし、と花枝は頷いてスタッフらにアイコンタクトを取る。

 同じくして、スタッフらからも頷きが返ってきた。


 撮影続行ということだ。


「じゃあ、瑠奈ちゃん。武器は撮影用にこっちで二種類用意してあるんだけど……どう? 使えそうかな?」


 そう言う花枝に投げ渡されたのは、二刀流仕様と思われる曲刀二本と、赤い棒……三節棍だ。


(まぁ、確かにチャイナドレスに大鎌はナンセンスだよねぇ~)


 瑠奈は手に持っていた大鎌と、渡された三節棍をEADの特殊空間に仕舞い込む。そして、まずは両手に曲刀を持ってみた。


「ん~、わかりませんが取り敢えず試してみます!」

「気を付けてね!」


 瑠奈は花枝から視線を外し、目の前に地面から飛び出てきているモンスターの方に構える。


 既に三つのカメラが砂に向けられている。

 アリサと花枝の、まだ若干の不安が拭いきれないような視線が向いている。


 だが、そんな不安は次の瞬間に、完全に消し飛ばされた。

 一体の【サンド・ワーム】と共に。


「あはっ!!」


 とてもカメラでは追いきれなかった。


 先程まで立っていた場所にいつの間にか瑠奈の姿はなくなっていて、いつの間にか【サンド・ワーム】の傍で跳躍していて、そして、いつの間にか――――


 ズシャァアアア!!


 一体の【サンド・ワーム】の長い身体が、文字通り言葉通りの八つ切りにされていた。


「うんうん! 曲刀も悪くないねぇ~」


 瑠奈は着地して刀身についた体液を振り払いながら、感想を口にする。


 もはや周囲に群がる【サンド・ワーム】など見てはいない。

 自分の両手にある曲刀の切れ味に、デザインに、視線を注いでいた。


 まさに隙だらけ。


「瑠奈ちゃん危ない――」


 アリサがそう声を上げた刹那。

 ドォオオオン! と【サンド・ワーム】が頭から突っ込み、その大きな口で瑠奈を丸呑みにした。


 絶句する面々。

 地面ごと食らう勢いで頭から突っ込んだまま微動だにしない【サンド・ワーム】。


 しかし…………


 ヒュヒュヒュ! と連続で空気を切るような斬撃音がしたかと思えば、突如内側から破裂する【サンド・ワーム】。


 四散する肉片の真ん中で、瑠奈が両手の曲刀を振り払った状態で静止していた。


「まったく……撮影なのにワタシを見えなくしちゃダメだよ~」


 瑠奈はやれやれと首を横に振り、スゥと上体を前傾に倒れ込ませるようにしてから地面を蹴り出し、疾走。


(実際に動いてみてわかったけど、このチャイナドレス結構伸縮性があって動きやすいなぁ~)


 瑠奈は自分を食おうと巨大な口を開けて次から次へと突っ込んでくる【サンド・ワーム】を躱し、その長い身体を足場にして軽やかに跳躍していきながら、呑気のそんなことを考える。


(それに、普段大鎌だからちょっと重量感に物足りなさを感じるけど、その分――)


 ヒュン! と霞む瑠奈の身体の輪郭。

 両手に煌めく刃で、向かってくる【サンド・ワーム】の身体を切り刻んでいく。


「――早く動けるっ! あははっ!!」


 それはまるで一陣の風が意思を持って吹き抜け、かまいたちのように切断しているような光景。


「さてと……じゃあ、お次は」


 瑠奈の両手から光の粒子となって消える曲刀。

 代わるように右手に現れたのは、赤い三節棍だ。


「いまいち使い方わかんないけど――」


 ダッ、と強く地面を蹴り出す瑠奈。

 三節棍の各関節を繋いだまま、ビリヤードのキューのように構えて【サンド・ワーム】に肉薄し、


「――ふっ!」


 真っ直ぐ突き出す。

 ズドンッ! と三節棍の先端が、硬い【サンド・ワーム】の皮膚を大きくへこませ、その衝撃が反対側から抜けていく。


 続けざまに、連続で乱れ突き。

 一撃一撃に確かな重さが乗った三節棍の突きが、【サンド・ワーム】の内臓器官を粉砕。


 右から突っ込んでくる他の【サンド・ワーム】を跳躍で躱し、宙で三節棍の関節を外すと、回転から得られる遠心力をありったけ乗せて叩き込む。


 皮膚が硬いとは言っても鎧ではない。

 Bランクモンスターと渡り合える瑠奈の一撃に耐えられるはずもなく、衝撃で身体がバラバラに砕け散った。


「あ~あ。もうちょっと楽しみたかったけど――」


 瑠奈が自分を中心にして、同心円状に三節棍をブゥン! と思い切り振った。


 残り数体となっていた【サンド・ワーム】。

 三節棍に直撃して粉微塵になった個体もいれば、一振りの衝撃波で身体が両断された個体もいる。


 ただ一つ確かなのは、生き残った個体はいないということ。


 瑠奈の周囲に散らばった【サンド・ワーム】の肉片や半分になった大きな身体が、黒い塵となって空気に溶けていく。


 そんな中で瑠奈は何事もなかったかのような表情で三節棍の関節を繋ぎ、器用にクルクル回してからカツッと地面に突く。


 そして、清々しい笑顔で皆の方に振り向くと――――


「どうですかっ? 良い写真、撮れました?」


 カメラマン三名は顔面蒼白。

 心中は見事にシンクロしていた。


(((速すぎてカメラに収められなかったって言ったら……自分達も肉片にされるっ……!?)))

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― 新着の感想 ―
[良い点] こんにちは。 三節棍ってかなり扱いが面倒臭いと聞いたこと有りますが…それを初めてなのに問題なく振るえる辺り、瑠奈ちゃんは武術の才能を生まれ持って誕生してた→ダンジョンでステータスを上げる…
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