第40話 配信者とモデルの違い
昼休憩のあと瑠奈達が撮影のためにやって来たのは、どこまでも岩と砂の枯れた大地が続く荒野のCランクダンジョン。
「そういえば、今日は護衛の探索者は雇わないんですか?」
写真映えする撮影スポットを求めてスタッフらと共にダンジョンを歩いていた瑠奈が、ふと気になったことを花枝に尋ねる。
すると、花枝は「何言ってるの~」と笑う。
「今日はそこらの護衛より信頼できる被写体がいるでしょ?」
「え……?」
どこに? と瑠奈は再度質問しかけたが、皆の視線が自分に向いていることに気付き、その意図を察して照れたように微笑んだ。
――と、そんな話をしていると早速モンスターの気配。
まだアリサや花枝、他の撮影スタッフらは気付いていないが、瑠奈だけは確実に自分達に向けられる殺意を感じ取っていた。
撮影のため着ているチャイナドレス風の装備には不似合いだが、もはや自分の身体の一部といっても良いほど馴染んだいつもの大鎌をEADの特殊空間から取り出す。
「皆さん、モンスターです」
「「「――ッ!?」」」
瑠奈の警告を受け、皆の表情に緊張が走る。
先日イレギュラーでBランクモンスターと出くわしたせいもあって、微かな恐怖も感じられる。
(でもまぁ、この殺意の強度は……)
褐色の岩の隙間から姿を見せたのは、荒野での保護色になっている茶色い鱗に身を包んだトカゲ型のDランクモンスター【サンド・リザード】。その数五体。
流石に一般的なトカゲよりは大きいが、それでも全長一メートル弱。
攻撃手段も尖っているが小さな爪と、ギザギザの歯のみ。
「え、えぇっと……じゃあ、手早く片付けちゃいま――」
「――いいえ、瑠奈ちゃん。これでも私はCランク探索者ですの。Dランクモンスター数匹に後れを取ったりしませんわ」
それに――と、アリサがEADの特殊空間から取り出したショットガンをリロードしながら言う。
「これは撮影にピッタリの状況ですわ!」
アリサの言う通り、スタッフが慌ただしく動き始める。
撮影スタジオで写真を撮っていたカメラマンのおじさんを含めた三人のカメラマンも、それぞれ異なる位置に立ってカメラを構える。
そんな様子に瑠奈が呆然としていると、花枝が「驚いた?」と笑い掛けながら説明してきた。
「私達が写真に収めるのは、オシャレな防具類だけじゃないのよ。各種武器メーカーからも宣伝になるからと色んな武器を撮ってほしいって頼まれてるの」
「じゃあ、わざわざダンジョンで撮影するのは……」
「そう。防具と武器……装備全部合わせて一つのオシャレでしょ? すべて揃った状態で実際にダンジョン探索してる光景を写真に収めることで、真にダンジョン・フロートにおけるモデルの仕事を果たしたと言えるのよ」
そこがダンジョン探索配信者と探索者モデルの違なんだ、と瑠奈は気付いた。
瑠奈自身、可愛い自分が可愛い服を身に纏い、対照的に物騒な武器を振り回すことでギャップ萌えを誘って人気を得るというテーマで配信をしている。
人に魅力を伝えるという点ではそれは探索者モデルも一緒。
では、両者の何が違うのかといえば、それはオシャレするのが自分なのか他人なのかだ。
瑠奈は自分の魅力を最大限に活かせる装備を纏って自分自身を映えさせるが、探索者モデルはその名の通り自分自身はあくまでモデルなのだ。
雑誌を手に取り、モデルが身に付けている装備を気に入った読者がそれを参考にしてオシャレする。
自分を輝かせる瑠奈と、他人にオシャレを広めるアリサ。
探索者は奥が深いなぁ……と瑠奈が改めて感心していると、その視線の先で早速アリサが引き金を引いた。
ダァン! という炸裂音と共に、銃口から魔力が練って固められた弾丸が小範囲に散らばりながらモンスターを捉える。
先頭を走ってきていた一体の【サンド・リザード】の頭部や背中を撃ち抜いて倒し、続けて魔力弾を装填して射撃。
見事に二体連続で仕留めて見せた。
(おぉ……これが銃かぁ……!)
瑠奈は初めて目にする銃での戦闘に瞳を輝かせる。
別に瑠奈が普段ソロでダンジョンに籠っていて、他の探索者との交流がほとんどないから銃を見たことがないわけではない……いや、少しはそれも原因かもしれないが。
一番の理由は、まず銃という武器種がダンジョン探索用に製造・普及され始めたのがここ数年で最近だということ。
それまで中・遠距離攻撃の手段は弓矢か【魔術師】になるしかなかった。
しかし、弓矢は基本的に貫通力に欠けていたり連射性に欠けていたりと、使いこなすのが難しい。
後者に関しては生まれ持った才能がモノを言う。全員が全員なれるわけではない。
そこで登場したのが銃。
長年、人工的に魔力を圧縮して蓄え、それを弾丸として射出する技術が確立しなかった。
しかし、銃としての性能を発揮できるようになってからは、抜きん出た才能で魔力容量が膨大でなくとも、中・遠距離攻撃が可能となった。
革命だ。
これからどんどん普及していくだろうが、やはりまだ剣や槍などを用いた戦闘スタイルを好む探索者の方が圧倒的に多い。
「――ふぅ、どうですの? いい写真は撮れまして?」
アリサが戦闘を終え、カメラマン達に話し掛けている。
だが、そんな悠長に会話を楽しんでいる暇はないようだ。
どうやら、今の戦闘音で他のモンスターが寄ってきたらしい。
瑠奈の口角が微かに持ち上がる。
周囲で地響きが聞こえ始める。
「……ワタシの番かな? あはっ」




