最終話 やはり可愛いは正義で最強(狂)だった!
ケルベロスが放射した火炎は、瑠奈がフィールドを円形に切り取って立ち上げた巨大な石板の盾によって防がれた。
非公認でも、ダンジョン内一級建築士の称号が授与されてもおかしくない瑠奈の防御方法に、視聴者らがコメントの激流で盛り上がりを見せる。
そんな中で、瑠奈は鎖を引っ張り手元に戻ってきた大鎌を構えると、金色の瞳を爛々と輝かせ、口角を吊り上げた。
「さぁ、華々しいクライマックスをもって、可愛いは最強であることを今日も証明してあげるよっ!」
シュボァアアアアア――と、瑠奈の背中から黒炎が噴き出しては、二翼一対の漆黒の翼を形成した。
《狂花爛漫》によるあらゆる身体能力の昇華と《エンジェルフォール・ザ・ウィング》による制空権の獲得。
魔力消費を惜しまない、まさしく勝負を決めるための全身全霊。
そして、それは鈴音と凪沙も同じ。
長杖を掲げた頭上に、ライフリング加工が施された巨大な氷の弾丸を浮かべて待機している鈴音。
「瑠奈先輩、いつでも行けます!」
「……さ、行くよ……『おこめ』『あずき』……」
凪沙は閉じていた目蓋をスゥと持ち上げながら、右手に持つ白銀の刀と左手に握る黒曜の刀それぞれに呼び掛け、キラリと刀身が光って返事をしたのを感じ取りながら構えた。
三人共の呼吸がシンクロする――――
「あはっ!!」
バッ、と黒翼で宙を蹴って飛び上がった瑠奈が、立ち上げた巨大な円形の石板を遠慮なく粉砕してケルベロスに向かっていく。
「リミッター解除。内包魔力・全開放ッ!!」
モンスターを斬るごとに大鎌に蓄積されていっていた魔力を燃やし尽くし、眩い輝きを放つ中で大鎌が巨大化する。
更に、
「《バーニング・オブ・リコリス》」
シュバッ! と深紅に燃え盛る緋色の三日月。
宙に浮かび上がるそれは、激闘の幕切れ、終焉の訪れの象徴。
その宣告をするのは、ダンジョンに羽ばたく悪魔。
ケルベロスの右の頭がそんな瑠奈の姿を仰ぎ見る。
また、左の頭は諸手に対照的な色の刃を輝かせて飛び込んでくる凪沙に目を剥き、更に真ん中の頭は、遠巻きで並々ならぬ質量の弾丸をライフリングに沿って高速回転させている鈴音の怪しさに目を細めていた。
三者の攻撃は同時――――
「闇夜に瞬く星々の如し……《おしるこ》……!」
「撃ち貫けっ――《アイシクル・キャノン》ッ!!」
振るわれる二振りの打刀。
何の比喩もなしに事実、星の瞬きの如き刹那の間に千の斬撃が迸り、ケルベロスの左の頭を切り刻む。
血飛沫が散華する中、飛来した巨大で超硬度の氷のライフル弾は真ん中の頭蓋を容赦なく打ち抜き、貫通した衝撃の様子を可視化するように氷が背後から突き抜けた。
そして――――
「あっはははぁあああっ!!」
手の届かない空高くから急降下してきた瑠奈が、燃える緋色の大きな三日月を思い切り振り下ろす。
迎え撃たんと牙がズラリと並んだ大きな咢を広げていたケルベロスの右の頭だったが――――
ズシャァァアアアアアッ!!
襲い掛かった縦一閃の斬撃によって、呆気なく二枚下ろしにされた。
切り口から深紅の炎が迸る。
まるで割れたガラスのヒビでも刻むかのように、炎はやがて全身に広がり、三人と視聴者が見守る先でケルベロスの巨体を爆散させた。
鈴音の近くに着地する、瑠奈と凪沙。
三人で屍と化した燃える巨体が炎の中で黒い塵となって消えていく様を見守る。
○コメント○
『おおおおお!!』
『討伐成功!?』
『三人でSランクモンスターやりやがったw』
『マジ草』
『どゆことw』
『Sランク二人とSランク予備軍つえぇw』
『いや【剣翼】の《おしるこ》なにwww』
『感動的場面に一点のギャグ要素やめてもろて』
『名前と威力のギャップ草』
…………
コメント欄が歓喜に盛り上がる脇で、鈴音がその場にゆらゆらと座り込んだ。
「ふえぇ……勝った、勝てたぁ……」
「あはっ、お疲れ様。鈴音ちゃん」
「ん、お疲れ……」
労いの言葉を掛ける瑠奈と凪沙に、鈴音は力を出し尽くしたように座り込みながら、物言いたげな視線で睨む。
「んもぉ! お疲れ様、じゃないですよ! 瑠奈先輩がこんな無茶な戦い始めなければ疲れることもなかったんですっ!」
「うっ、すみません……」
「ホントですよ! 命がいくつあっても足りません。反省してください」
○コメント○
『【悲報】ルーナ全視聴者の前で公開説教されるw』
『命懸けてるときの方がイキイキしてるの草』
『ルーナは一回マジで反省した方が良いw』
『いい機会』
『いいぞもっとやれ』
『ルーナがしょんぼりしてて草』
『Sランク、説教の前に無力www』
…………
「取り敢えず、帰ろうか……」
「ありがと、お姉ちゃん」
そっと手を差し出した凪沙。
鈴音はその手を掴んで「よいしょ」と立ち上がり、瑠奈にジト目と人差し指の先を向けた。
「瑠奈先輩、覚えてますよね? 帰ったらお説教です!」
「はいぃ……」
相変わらず無機質で淡白な表情の凪沙と、不満げに頬を膨らませる鈴音。
そんな二人に付いて行く形で、しゅんとした瑠奈も帰路に就いたのだった――――
◇◆◇
二本排他的経済水域某所。
ダンジョンと共に発展・拡大してきた海上都市。
――ダンジョン・フロート。
ギルド統括の下、数多くの探索者が活動する中で、突如現れては歴代最速でSランク探索者に登り詰めた少女がいた。
あどけなさの残る可愛らしい顔。
小柄で華奢な体躯。
誰もが思わず守ってあげたくなるようなその愛らしい外見で、その手に握られるのは背丈ほどもある緋色の大鎌。
一度ダンジョンに潜れば可愛らしい顔は狂気染みた笑みを湛え、少女が通った道にはモンスターの屍が積み上げられる。
七人目のSランク探索者【狂姫】。
通称、【迷宮の悪魔】。
今日も彼女は、ダンジョンに足を運ぶ。
明日も、明後日も、その先も……大鎌を振るう日常は変わらない。
多くのファン、視聴者に見守られて。
ダンジョンの中で少女は笑う。
「可愛いは最強、なんだよ? あはっ!!」
足元には、無数のモンスターの屍が転がり、血だまりが出来ていた――――
完結っ!!
長い間お付き合いいただきありがとうございました~!!
いやぁ、感慨深い。
ボク、あんまり百話を超えるような話は書かないんですけど、瑠奈ちゃんの物語は筆が乗りましたねぇ……w
それもこれも、作品内で瑠奈ちゃんの配信を見ている視聴者のような感覚で、読者の皆様が楽しんでくれたお陰。支えてくれたお陰です!
ほんっとうに、ありがとうございます!
まぁ、結構人気を得た作品なんでね。
もしかするとどこかのタイミングでアフターストーリーのようなものを描くこともあるかもしれませんし、Xなどで裏話みたいなのも呟くつもりです!
(他の新作で別世界線の瑠奈を登場させても面白いかも? この作品を知ってる人にだけわかるネタ、みたいな……?)
どうか、今後ともボクの作品達と付き合っていただけたら幸いです!
ボクからは、以上です!
ではっ!!
瑠奈
「みんな~! いつも配信を見てくれてありがとうっ!
もちろんワタシの可愛いへの道はまだ続いてるし、どんどん戦っていくけど、取り敢えず物語は一区切り!
あはっ!
寂しい?
そっかそっか~!
でも、それだけワタシのことが大好きって証だもんね?
ありがとねっ!
みんなの応援があったからここまで来られたし、熱い戦いが出来たと思うな~。だから、これからも変わらず応援、してくれるよね?(スッ……)
あはっ!
うんうん、良い返事!
じゃ、ダンジョンが呼んでるからそろそろこの辺でっ!
みんなっ、まったね~!!
あっはは!」




