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106/106

第106話 地獄絵図の三(人)対三(頭)!

○コメント○

『おぉおおお!!』

『援軍来たぁ~!』

『向坂姉妹だ!』

『天才二人きたあああああ!』

『な、何とか助かるか?』

『ちょっとは生存ルート見えてきたw』

『Sランク二人Aランク一人か』

『戦力的にはどうなんだ……?』

『三人ともランクで語れない実力あるから何とか?』

 …………



「あはは、お陰で助かったよぉ。ありがと、鈴音ちゃん。凪沙さんもありがとうございます」


 ぎこちない笑みを浮かべながら後ろ頭を撫でる瑠奈に、鈴音は「もうっ」と腰に手を当てて不満げで、凪沙は相変わらず感情の起伏なく「お安い御用……」と呟くだけだった。


 しかし、流石は最年少でSランク探索者デビューし、踏破してきた窮地の数が違う凪沙。


 切迫した状況においても誰よりも平静を保ち、正しく状況を把握する。


「話は、また……取り敢えず、今は【ケルベロス】を片付ける……」

「瑠奈先輩、帰ったらお説教ですからね?」

「……はい」


 瑠奈は若干しょぼんとしながらも、ゆったりと右手に白刃を携える凪沙に並ぶように前に出た。


 後衛はもちろん鈴音で、既に長杖を構えていた。


 そうやって三人がフォーメーションを組む様子を睨んでいたケルベロスは、三つ首ともで大きく息を吸い込み、胸を大きく膨らませると――――


「「「バグオオォオオオオオオオンッ!!」」」


 地を揺らし、大気を轟かせる爆音の遠吠え。


 それに応えるように、ケルベロスの巨躯がフィールドに落とす陰から、殺意に牙を剥く黒い狂犬が続々と姿を現す。


 目算ざっと五十体。


 圧倒的な物量の出現を目の当たりにし、ゴクリと喉を鳴らしながらも口角を吊り上げる瑠奈、無反応の凪沙、長杖の柄を握る両手に力が籠る鈴音。


「……鈴音、これは良い練習になる」

「お姉ちゃん?」

「全体を見渡せる後衛……鈴音が指揮、取って」

「えっ!? ちょ……え!?」

「瑠奈……いい? 配信、してるけど……」


 左隣に立つ凪沙が、緊張感なく淡々と配慮を示しながら尋ねてくるので、瑠奈はキラリと金色の瞳を輝かせて一言。


「もっちろんです!」

「お姉ちゃぁん、私の意思はぁ……?」


 配信主の瑠奈には許可を得ようとするのに、話題の中心である鈴音本人には意思確認をしない凪沙に、鈴音は半泣きになるが――――


「……獅子は、子を谷へ落として……その勢を見る……」


 凪沙はそう呟いて、半分振り返り、空いている左手の親指をグッと立てて見せた。


 その様子を見ていた視聴者らは――――



○コメント○

『スパルタで草』

『向坂流育成術www』

『可愛い子には旅をさせよってかw』

『旅先Sランクダンジョンなのマジ草』

『笑い事じゃないけどwww』

『Sランク探索者こんなんばっかなの?w』

『※頭のネジがないのは仕様ですw』

『マジ天災www』

『【悲報】獅子の子、ケルベロスの眼前に落とされるw』

 …………



「あはっ! 頑張って、鈴音ちゃん!」

「瑠奈先輩……」

「ワタシ、鈴音ちゃんが後ろにいてくれると安心するからさぁ~」

「――っ!?」


 瑠奈の言葉に、潤みがかっていた鈴音の瞳が大きく見開かれる。


 視界に飛び込む、瑠奈の笑顔。

 屈託のない、鈴音を全面的に信頼している明るさ。


 それらがドクッ、と鈴音の心臓を一際大きく脈動させた。


 鈴音の小さな口許が弧を描く。

 スッ、と僅かに顔が下を向き、目元が前髪で陰る。


「……三秒」


 ブワッ……! と、鈴音の身体から冷気が溢れ出す。


「三秒でケルベロスまでの道を拓くので、瑠奈先輩とお姉ちゃんは全力で斬り込んで行ってください!」


 長杖を頭上に掲げながら叫ばれる鈴音の指示に、瑠奈と凪沙は一度顔を見合わせて頷く。


「了解っ!」

「わかった」


 鈴音の頭上を起点に瞬く間に冷気が広がり、空中に鋭利な氷柱が無数に並んでいく。


「いきますっ!! 《アイシクル――」

 鈴音が長杖を振り下ろす。

「――レイン》ッ!!」


 引き絞られた弓から矢が放たれるように。

 それらは一斉に解き放たれた。


 ズザザザザザァ――――!!


 ゲリラ豪雨の雨粒がすべて槍で出来ていたなら。

 そこに訪れるのは、どこまでも非情な屍山血河の光景。


 そんな架空の一枚絵を描き出すように、呼び出された狂犬の群れは氷柱の雨に撃ち貫かれていった。


 それを見た瑠奈と凪沙が、グッと地面を踏み締める。


「……瑠奈」

「あはっ、行きましょうっ!!」


 ダッ!! と蹴り出した地表を捲り上げて駆け出す二人。


 血煙の中から死に損ねた狂犬が正面から襲い掛かってくるが、その頭数も両手の指で数えられる程度。


 やはり二人の足止めにしては役不足で――――


「あははっ!」


 駆ける速度を緩めることなく、巧みに大鎌を振るって斬り飛ばしていく瑠奈。


「一、二……三、四、五――」


 凪沙は淡々と白刃を踊らせて、血飛沫が散華する度に撃破数をカウントしていく。


 あっという間に狂犬の群れの残党も片付け終え、巨大な三頭獣までの道のりが完全に拓けた。


 呼び出した取り巻きをこうも短時間のうちに殲滅させられたために苛立ちを募らせるケルベロスが、瑠奈と凪沙を振り払おうと、太い爪が伸びる大きな前脚を持ち上げる。


 そして――――


 ズザァアアアアアンッ!!


 圧倒的質量を誇る前脚が、フィールドに深々とした爪痕を刻んだ。


 瓦礫が飛び散り、大量の土煙が舞い上がるが、瑠奈と凪沙はそれぞれケルベロスの左右側面に回り込むようにして回避していた。


 だが、一度の攻撃を避けたところで油断は出来ない。


 そのことを先程一人でケルベロスに挑んだときに学んだ瑠奈は、攻撃後の三つ首の動きを注視する。


 案の定、間髪入れずに次の攻撃の準備をしていたケルベロス。


 右の頭は右側面に回り込んだ瑠奈を。

 左の頭は左側面に回り込んだ凪沙を。

 真ん中の頭は後衛に控える鈴音を注意しつつ、全体の動きに対応出来るように構えていた。


 クワッ、と左右の顔が大きく口を開く。

 鋭利な歯をズラリと並べたその咢の奥で、やはり赤黒い炎が滾っている。


 それを見て、二人は足を止める。

 火炎が噴き出されたのは左右同時。


 シュゴォゴゴゴォオオオオオオオッ!!


 左側で凪沙は、収められていた右腰の打刀を左手で抜き放つと同時、黒曜の刀身に黒と紫が入り混じったような電撃を迸らせて――――


「穿て――《鳴神》」


 カッ――と、一瞬の眩い閃光と共に真っ直ぐ雷撃が突き抜ける。


 目前に迫っていた赤黒い火炎のド真ん中を撃って四散させ、電撃がケルベロスの左頭の口内で弾けて爆発。


 左頭は一瞬意識が落ちたのか白目を剥いた。



 そして同時――――



「はははっ!!」


 瑠奈は鎖でリーチを伸ばした大鎌を、自身を中心として同心円軌道で振り回し、その高い切断力の刃でフィールドに切れ込みを入れる。


 さもコンパスで新円を作図するように刻み終えると、バク宙で大きく飛び下がりながら円の一歩外に出て、大鎌の刃を自分の一番遠い位置の切れ込みに引っ掛ける。


「そぉぉおおおりゃぁあああああッ!!」


 ガッ、と釣り針のように円の端に引っ掛かった大鎌から伸びる鎖を《狂花爛漫》で爆発的に昇華させた筋力で引っ張る。


 すると、ゴゴゴォ……と綺麗な新円に切り取られたフィールドが分厚い石板となって吊り上げられていき徐々に立ち上がる。


 それはケルベロスと瑠奈の立ち位置の丁度間に立ち塞がる壁となり、放射された火炎を問題なく防ぐ盾となった。


 この見たこともない攻撃の対象法に、これまで瑠奈に何度驚かされてきたかわからない、ある意味驚き慣れた視聴者らも驚愕していた――――



○コメント○

『なんじゃこりゃwww』

『力技が過ぎるwww』

『ぶっはwww』

『でけぇえええ!w』

『盾がなければ作ればいい精神草』

『これはもう探索者じゃなくて建築家w』

『巨大なオブジェ作りやがったw』

『ダンジョン内一級建築士で草』

『脳筋っていうレベルじゃねぇ』

『綺麗な丸だなぁ(白目)』

『この円の石板の面積を答えなさいwww』

 …………

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