第105話 【速報】SランクダンジョンLIVE配信中!
◇ステータス情報◇
【早乙女瑠奈】Lv.82(↑Lv.2)
・探索者ランク:S
・保有経験値 :2000
(レベルアップまであと、6200)
・魔力容量 :1025(↑5)
《スキル》
○《バーニング・オブ・リコリス》(固有)
・消費魔力量:250
・威力 :準二級
・対単数攻撃用スキル。攻撃時に深紅の焔を伴い、攻撃箇所を起点として炎が迸り爆発。噴き上がる炎の様子は彼岸花に似ている。
○《狂花爛漫》(固有)
・消費魔力量:毎秒10
・威力 :二級
・自己強化スキル。発動時全身に赤いオーラを纏い、身体能力・肉体強度・動体視力などの本来持ちうる能力を大幅に強化する。強化量探索者レベル+10相当。
○《エンジェルフォール・ザ・ウィング》(固有)
・消費魔力量:毎秒10
・威力 :特級
・自己強化スキル。発動時背中に二翼一対の黒翼を展開し、飛行を可能にする。
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○コメント○
『いやいやヤバすぎ!!』
『死ぬ死ぬ死ぬ!!』
『調教済みのワイらがビビるレベル』
『流石にアウト』
『流石に絵面が違い過ぎる……!』
『今に始まったことじゃないけど無謀が過ぎて草』
…………
LIVE配信のコメント欄に滝の激流の如く押し寄せる不安と心配と絶叫の声を尻目に、燃えるような赤を基調とするドレスを纏った少女が、身の丈を上回る緋色の大鎌を手に疾走していた――――
「あはっ、あははっ、あっはははははっ!!」
Sランク探索者【狂姫】――早乙女瑠奈。
通称、迷宮の悪魔。
Sランク探索者認定から早一ヶ月ちょっと。
冬休みに突入したのを良いことに、課題を速攻で終わらせた瑠奈はダンジョンでソロ探索LIVE配信を行っている。
それも、ただのダンジョンではない。
Bランクはおろか、Aランクすら超えて、まさに魑魅魍魎が跋扈する地獄――Sランクダンジョン。
鈴音はもちろん、他のSランク探索者達からも「絶対一人で潜るなよ?」と再三にわたって釘を刺されていたので、しばらくの間は自嘲していたが…………
「グラァウウウッ!!」
「グウェアァアアアッ!」
「バウゥウウウッ!!」
「いいねいいねいいねぇっ!」
ローマのコロッセオを思わせる、古びた石造りの円形闘技場のフィールドの上。
タタッ、タタッ――と二メートル近くある体躯の黒い狂犬の群れが獰猛な牙を剥いて駆けてくるが、瑠奈は臆するどころか高らかに笑って突っ込んでいく。
正面から飛び掛かってくる一体を横薙ぎに斬り伏せ、血飛沫舞う中返す刃で後続の二体をまとめて薙ぎ払う。
大きなモーションだ。
その後の隙を狙うかのように左右から囲って駆け寄ってくる四体がいる。
瑠奈は振り抜いたあとの大鎌を無理に持ち上げようとはせず、むしろその場の地面に刃を突き立てて支柱代わりにすると――――
「あはっ!!」
「グウェアウゥッ……!?」
支柱にした大鎌の柄を握って激しいポールダンスのように身体を回転させて遠心力を生み、勢いの乗った蹴りで迎え撃つ。
つま先で首を穿って脊髄を絶ち瞬殺。
かかと落としで頭蓋を粉砕し冥土送り。
柄から離した手で鋭利な貫手を放ち、胸を抉って文字通りハートブレイク。
続けざまに最後の一体の頭を両足に挟むと、そのまま倒立してコマのように回転し、遠くへ放り投げた。
むやみやたらに吹っ飛ばしたわけではない。
狙い定まった指向性をもっている。
宙でなすすべなくグルングルンと回る狂犬は、コロッセオの中央へと向かう。
そして――――
べシャァ!!
地面に打ち付けられる前にその身体が弾けた。
否、弾かれた。
コロッセオ中央に堂々たる威容で佇む、四足三頭の神話の怪物――Sランクモンスター【ケルベロス】。
そこらの一戸建てなど片足で踏み潰せるほどの巨躯。
艶のある黒い体毛に覆われ、獰猛な犬の顔は三つそれぞれに赤く爛々と輝く瞳と、ギラリとした光沢を湛える牙が並んでいる。
尻尾は蛇で、挙動を見るに自我を持っているようだ。
一体どんな強者がそうしたのかはわからないが、三つ首にはそれぞれ重厚な鎖の首輪が巻き付けられている。
とはいえ、番犬の飼い主の姿はなく、鎖も別段どこかに括りつけられているわけではないので、残念ながらその凶暴性を制限することは出来ていない。
取り巻きの狂犬を殲滅させられて怒っているのか――最後の一体はケルベロス自身が手を下したが――三つ首揃えて瑠奈を獰猛に睨みつけている。
○コメント○
『ルーナもう充分!!』
『ルーナ引き返せ!』
『持ちうるすべての実力を発揮して逃げろ!』
『あぁもう、なんでいつもこう!?』
『せめてSランクダンジョンではやめてくれぇ!』
『つ、ついにSランクダンジョンが配信で見れる時代に(白目)』
…………
「あはっ、みんな大丈夫大丈夫。大丈夫じゃないから、大丈夫!」
『謎理論!』『理解不能すぎるw』『ルーナの思考はもう芸術の域なんよ……』等々、瑠奈の無根拠なポジティブ思考に視聴者らは困惑する。
だが、そんな様子に呆れるのはむしろ瑠奈の方であった。
「もう、みんな忘れちゃったのぉ~?」
スゥ、と大鎌の柄を両手で握り込み構えると、ニヤリと口角を吊り上げて言い放った。
「大丈夫じゃないからこそ、そこに挑戦する価値と楽しさがあるんだよっ!」
ダッ!
勢いよく地面を蹴り出す瑠奈。
身体の輪郭を霞ませて疾走する。
右へ左へ狙いを定めさせないように動きながら距離を詰めていくが、やはり三つの頭、計六つの目があるのは厄介で、確実に瑠奈の進路を捉えてくる。
真ん中の頭がクワッ、と大きな顎を開く。
その喉奥から赤黒い熱エネルギーの光が見え――――
シュゴゴゴォオオオオオッ!!
瑠奈の前方斜め上から、人骨など容易く熔解させるようなどす黒い炎が降り掛かってくる。
「あはっ、炎は炎で掻き消させてもらうよっ!!」
靴底を滑らせながら急停止した瑠奈は、大鎌の刃にシュバッ! と深紅の焔を灯す。
腰に引き付けるようにして構えた大鎌。
駆けてきた勢いを殺さぬうちに手元に伝え――――
「吹き飛べ――《バーニング・オブ・リコリス》ッ!!」
燃える刃が一閃。
押し寄せたケルベロスの炎を、瑠奈の深紅の炎が迎え撃ち炸裂する。
双方の炎が衝突し、乗算方式で熱量が高まる。
瞬間的に辺り一帯が熱エネルギーで焼き上げられた。
急激な温度上昇に瑠奈は一瞬くらっと眩暈を覚えたが、狙い通り炎同士は相殺され、直接焼き焦がされることは防げた。
しかし――――
「っ、頭三つってそう言うことも出来るんだねぇ……!?」
視界を埋め尽くしていた炎が晴れる。
舞い散る炎の残滓の奥で、左右の頭が炎をチラつかせる口を大きく開いていた。
ドキリ、と危機感と後悔から瑠奈の心臓が大きく跳ねる。
失念していた。
一つの頭が炎を吐くのを見たときに、他二つも同じ攻撃手段を持っている可能性を考えるべきだった。
それもこれも、頭が複数あるモンスターを相手取った経験のなさが原因か。
(いやっ、それは言い訳……! Sランクモンスター相手に楽しくなって油断した……!)
ギリッ、と歯を食い縛る瑠奈。
しかし、反省しながらも目の前の状況から目を逸らさず、同時進行で次の行動を模索する。
今にも炎を吐き出そうとしている二つの頭に対して、直接的に対処するのは不可能。手遅れだ。
回避行動に移っても、二つの頭から吹かれる炎は先程より広範囲高火力で完全に躱し切るのは無理だろう。
なら今すぐ取れる手段は一つ。
(《狂花爛漫》で肉体強度を強化して耐える……!)
全身火傷を覚悟すれば、少なくとも身体が溶け消えることはなくなるはずだ。
腹を括った瑠奈は冷や汗を浮かべつつも口角を吊り上げ、早速《狂花爛漫》を発動させようとし――――
「《アイシクル・レイン》ッ!!」
「《霜薙》……」
右の頭に無数の鋭利な氷柱が降り注ぎ、左の頭に凍てつく寒波が襲い掛かった。
唐突な攻撃を喰らい、吐き出されようとしていた黒々とした炎は霧散する。
瑠奈が呆気に取られていると、両脇に人影が降り立った。
「んもうっ、瑠奈先輩! あれだけSランクダンジョンには一人で立ち入らないようにって念を押したのにぃ!」
「ウチは……いつかこうなると、思ってた……」
「あ、あはは……すみません……」