第103話 Sランク【狂姫】の紹介!?①
“七人目のSランク探索者! 『早乙女瑠奈』さんに迫る!”
と、そんなキャッチコピーテキストを浮かべた映像が、ダンジョン・フロートのあちこちに設置されたモニター、各家庭のテレビ、配信サイトを映すパソコン・スマホ画面から、軽快な音楽と共に流れる。
やがて切り替わった画面に映し出されたのは、スタジオで対面するように設置されたソファーに腰を下ろす瑠奈と、元気な印象を与える若い女性のキャスターだ。
「ダンジョンを愛する皆様、こんにちは! 最新情報を最速でお届け! ダンジョン・ラボのお時間です!」
キャスターは明るい表情と声色で、いつも通り番組開始時のテンプレートフレーズを口にし、すぐに話題を切り出した。
「さてさて、早速ではありますが、御覧の通り本日は特別ゲストにお越しいただいております! 現在話題沸騰中! ダンジョン・フロート七人目のSランク探索者! 【狂姫】こと早乙女瑠奈さんでぇえええす!!」
○コメント○
『うおおぉおおおおお!!』
『ルーナちゃぁあああん!!』
『Sランクおめでとう!』
『特集されてるwww』
『配信者の域にとどまらねぇ~!』
『ルーナたん最高!』
『きたぁあああ!!』
『Sランク名【狂姫】草』
『我らの《迷宮の悪魔》!!』
…………
キャスターの紹介を受けて、ソファーに腰掛けていた瑠奈は可愛らしく笑って、慣れた様子でカメラに向かって――画面の向こう側の視聴者達に向けて手を振った。
「どうもどうも~! 早乙女瑠奈ですっ!」
「配信サイトのコメント欄が大いに賑わうだけあって、いやぁ可愛い! 皆さん見てますか!? この可愛い女の子が最強の一角と名高いSランク探索者なんですよ!? 信じられないですよねぇ~!」
キャスターは興奮気味になりながら瑠奈に拍手を送る。
「そして知っている方も多いとは思いますが、この瑠奈さんは、ダンジョン探索配信者のルーナさんとしても有名ですよね! かく言う私も大ファンで、いつも配信を楽しみに観させてもらっています!」
「わぁ~、ホントですか!? ありがとうございます!」
二人が笑顔を向け合ったところで、番組スタッフが両者のソファーの間にモニターを運んできた。
それを切っ掛けにキャスターはパンッ、と両手を叩き合わせ、本題へと移る。
「それでは、そんなルーナさんこと早乙女瑠奈さんについて深掘っていこうと思います!」
運ばれてきたモニターが灯る。
映し出されたのは、瑠奈の大まかな経歴だ――――
・高校一年生 探索者登録
・歴一ヶ月 Eランク昇格
・歴二ヶ月 Dランク昇格
・歴四ヶ月 Bランク飛び級昇格
・歴六ヶ月 モデルデビュー
・歴一年三ヶ月 Aランクダンジョン踏破
・歴一年六ヶ月 Aランク昇格
・歴一年七ヶ月 Sランク認定
「い、いやぁ、こうして見ると凄いを通り越してもうワケがわかりませんねぇ……あはは」
キャスターは冷や汗を額に浮かべながら、ぎこちない笑みを浮かべていた。
「Sランク昇格は【剣翼】の音瀬凪沙さんの三年が最速記録でしたが、これで瑠奈さんが記録更新したということですね」
「まぁ、凪沙さんは中学三年生でSランク探索者認定ですから~。その最年少記録が破られることはないと思いますよ」
確かに瑠奈は怒涛の勢いでSランクに登り詰め、最速記録を打ち立てた。
しかし、それまで中学三年生でSランク昇格という最速記録と最年少記録の両方を併せ持っていた凪沙の異常さは、瑠奈の最速新記録に勝るとも劣らない。
「確かに……ただでさえ中学生で探索者デビューする人が少ない中で、Sランクにまで上り詰めたんですから凄まじいですよね~!」
「はい! いつも何かとお世話になってる人なんです!」
それこそ――と、瑠奈はモニターを指差す。
「Dランク探索者のとき、ワタシがCランク試験を受けずにBランク試験を受けたのも凪沙さんからの助言があったからですよ」
「えっ、そうなんですか!?」
「Aランク試験のときには、対人戦の特訓もしてくれて……本当にお世話になってます!」
キャスターは両の瞳をキラキラと輝かせて「豪華な交流ですねぇ~!」と感想を溢していた。
「でも、瑠奈さんの凄さも負けないですよ!? 色々ツッコミどころがあるんですが、まずは――そう! これです!」
キャスターが指差したのはモニターに映し出されている『歴一ヶ月 Eランク昇格』の文字だ。
「え~、ギルドの調査によりますと、二ヶ月ほど掛けてEランク昇格を果たす探索者が大半のようですが、瑠奈さんはその半分の期間で昇格してますよね? 何か特別なことをしていたんですか?」
そんな質問を受け、瑠奈は一瞬ビクッと肩を震わせた。
(さ、流石にその当時、姫プで効率良くレベリングしてた何て言えない……!)
とはいえ嘘を吐くのも危ない。
駆け出しの頃の瑠奈を知る探索者だっていないわけではないのだから。
瑠奈は表面上平静を保って、あくまで笑みを浮かべながら答えた。
「と、特別なことはなにもないですよ? 当初、私も駆け出しで右も左もわからなかったんですけど、そこは温かな先輩探索者さん達のパーティーに入れてもらって、色々教えてもらいながら成長していきました!」
嘘は言ってない。
当たり障りのない表現に言い換えて伝えただけ。
瑠奈の返答に満足したのか、キャスターも「なるほどぉ~」と納得した素振りを見せる。
「先達を見て聞いて学ぶ。基本中の基本ですが、だからこそ大切ですよね~! そして、やはり驚きなのは、瑠奈さんがパーティーで探索していたということですかね! 現在ではソロでの活動が目立ちますから!」
瑠奈はよく鈴音と組んでダンジョン探索をするし、モデル撮影はもちろん時々プライベートでもアリサと行動を共にすることもある。
しかし、やはりそれ以上の数をソロで探索しているし、ダンジョン探索配信を行うときも基本一人。
パーティーを組んでダンジョンに挑むのが当たり前である世間において、瑠奈の探索スタイルは異端そのもので、だからこそ話題性もある。
「なぜ今のようなソロ探索のスタイルにしようと思ったんですか?」
駆け出しの頃は普通にパーティーを組んでいたのなら、以降も同じようにすると考えるのが普通。
危険極まりないソロ探索のスタイルへと切り替えたのを不思議に思うのは必然で、キャスターが瑠奈にそんな質問を投げ掛けた。
瑠奈は「ん~」と唸って、記憶を振り返るように人差し指を頬に当てながら斜め上を見上げた。
「あれはまだEランクになったばっかりの頃だったと思うんですけどぉ、同行させてもらったパーティーと一緒に未踏破エリアに入って出られなくなっちゃって。そこでゴブリンの大群に襲われちゃったんですよね~」
「えっ、それって……まさか……!」
キャスターは悲痛な表情を浮かべて、両手で口許を覆った。
どうやら先走った想像を膨らませてしまったらしいので、瑠奈は安心させるように明るく笑って手をひらひらさせた。
「ああ、いえ。くっ殺展開じゃないですから安心してください」
いたいけな少女が大量のゴブリンに襲われれば、辿る末路は悲惨なものだろう。
確かに瑠奈の場合も悲惨な末路ではあった。
だが、それは瑠奈に降り掛かったものというより、むしろ瑠奈が作り上げた惨状で――――
「パーティーの人達がショックで戦えなくなっちゃったので、唯一動けたワタシがゴブリンを殲滅したら、そのスリルと快感にハマっちゃってですね~。気付いたら――」
瑠奈は仄かに赤らんだ頬を両手で挟むようにして隠し、恥じらい混じりに言い放った。
「――ソロ探索じゃないと満足できない身体になっちゃいましたっ……!」
きゃっ、と一人まるで乙女トークでもしているかのようなテンションを見せる瑠奈であったが、キャスターはこれっぽっちも理解を示していない「な、なるほどですねぇ……!?」と表面上の納得をぎこちなく見せていた。
○コメント○
『ドン引きで草』
『キャスター引いてるやんw』
『ルーナファンと言ってもまだまだビギナーだな』
『この発言に驚かない自分が怖い』
『ルーナならそうだよなぁとしかw』
『平常運転で草なんよ』
『恍惚とした表情で言うことではないけどなw』
『ルーナの恋人はダンジョンだからw』
『恋人というよりもはや家族』
『それはモンスターなんよwww』
…………
「え、えぇっと、始まったばかりで瑠奈さんには驚かされっぱなしですが、ここからどんどんその軌跡を辿って深掘りしていきますよ~! つ、続きは、CMのあとで!!」
キャスターはCM中の小休憩の間に、冷汗を拭い、引き攣った表情をマッサージしてほぐしたのだった――――