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第101話 決着!リベンジマッチ!!

「さぁ、オジサン。決着をつけようか! 最強に可愛いワタシが、引導という名のファンサービスをプレゼントしてあげるよ! あはっ!」


 滾る。滾る。滾る。

 それでも滾らせろ。


 力比べでは敵わない。

 戦闘経験でも敵わない。

 勝っている速度すら捌かれるというのなら、超えるしかない。


 今という自分の限界を破壊し、その先にある少し高みを手繰り寄せる。


 それを可能にするのは精神。

 肉体を凌駕するほどの、一種狂気とも呼べる強靭な精神。


「相変わらずワケわかんねぇ理由でワケわなんねぇ強さを引っ張り出してきやがるなぁ、嬢ちゃん」


 ジャスカーには自信があった。


 瑠奈がどれだけ斬撃を叩き込んで来ようと防ぎ切る自信が。

 瑠奈がどれほど素早く動こうとその狙いを読み切る自信が。


 それでも、どうしてか。

 ジャスカーはどうしても全身の肌がビリビリと痺れるような感覚を感じずにはいられなかった。


「さぁ、終わりにしようか。オジサン!!」


 グッ、と腰を低く沈めた瑠奈。

 大鎌を身体に引き付けるようにして持ち、獰猛に輝く金色の相貌でジャスカーを見据え――――


 ダッ――!!


 固い土肌を捲り上げる勢いで地面を蹴り出し、一直線にジャスカーへ迫っていく。


「っ、掛かってきな嬢ちゃん! だが、そう簡単に距離を詰められると思ったら大間違いだぜ!?」


 ジャスカーは武装義腕の左手を眼前に突き出すなり、すぐさまその掌にある銃口に火を噴かせた。


 シュダンッ!

 ダンッ! ダンッ! ダァン――ッ!!


 発射された魔力弾は迷いなく瑠奈に向かって飛んでいき、その進路を妨げんとする。


 しかし――――


「あっはは!!」


 瑠奈は疾走する速度を落とすことなく大鎌を巧みに振るい、その湾曲したヒヒイロカネの刃で襲い掛かる魔力弾の(ことごと)くを切り払っていった。


 ジャスカーが発砲音を轟かせる度、半瞬後にはその倍の数の着弾音が瑠奈の背後の地面から返ってくる。


「はぁ、結構魔力を喰うが仕方ねぇ……コレをくれてやるぜ、嬢ちゃん!」


 叫びながら、ジャスカーは一旦魔力弾の発砲を止めて左手首を捻った。


 カチャン、と何かが切り替わったような機巧的な音が鳴り――――


「吹っ飛びな!!」

「――っ!?」


 再び開かれた左の掌の銃口が一際激しい輝きを見せた瞬間、そこから太い一筋の光が迸った。


 カッ、と目を見開く瑠奈。

 次の瞬間には眼前まで迫っているその極太魔力レーザーに対し、大鎌を大上段に持ち上げる。


「リミッター解除! 内包魔力、全開放(フルスロットル)ッ!!」


 そう叫ぶや否や、緋色の大鎌がその内に貯えていた魔力を喰らい尽くして巨大化する。


 そして――――


「アッハハハハハハハッ!!」


 ズパァァアアアアアン――ッ!!!


 正面から津波のように押し寄せた光の奔流が、縦一閃の一太刀の下、左右に割れた。


 視界を埋め尽くすような輝きが収まったあとに残されたのは、ジャスカーの立ち位置から瑠奈の立ち位置まで真っ直ぐ抉られた地面と、それが瑠奈の正面でY字路のように枝分かれした有様。


「ははっ、おいおい冗談だろ……!? Aランクモンスターの胴体にすら風穴をぶち開ける一撃だぞ……!?」


 シュゥ……と、武装義腕の銃口から熱気を帯びた煙を吐き出させるジャスカーが、引き攣った笑みを浮かべながら、抉り取られたY字路の分岐点に佇む瑠奈を見据える。


 そんな視線の先で瑠奈は、貯蔵していた魔力を使い切って平時の大きさを取り戻した大鎌を、振り下ろす勢いで足元に突き刺した状態で佇んでいた。


 そして――――


「驚くのは――」


 ブワァァアアアアアアアッ!!


 瑠奈の全身から《狂花爛漫》の赤いオーラが吹き荒れた瞬間、その姿が残像を残して搔き消えた。


 驚愕と戦慄に目を剥くジャスカー。

 思考するより早く、振り返って大剣の腹を身体の前に構えた。


 刹那――――


「――まだ早いよ、あっはは!!」

「くっ……!?」


 ズダァアアアンッ!!


 この一瞬の間に背後まで回り込んでいた瑠奈が、爆発的に身体能力を昇華させた状態で跳び蹴りを繰り出した。


 とてもそのしなやかな細足と重厚な大剣の腹がぶつかり合ったとは思えない音を辺り一帯に轟かせる中、ジャスカーは殺し切れなかった衝撃に押されて、後方に大きく飛ばされた。


 しかし、そこは歴戦の元Sランク探索者。

 難なく崩れた体勢を立て直し、両足の靴底を滑らせながら着地した。


「で、ここで一息吐く間も与えてくれねぇワケか!」

「大丈夫! ワタシの可愛さで呼吸すら忘れらせてあげるからっ!」


 吹っ飛ばしたジャスカーを追い掛けてすぐ傍まで迫っていた瑠奈。


 既に振り抜く予備動作を終えている大鎌を見て、ジャスカーは最大限の警戒と共に大剣を構えるが、瑠奈は間合いの一歩外で思い切り大鎌を振るった。


 間合いを見誤ったか――と、ジャスカーは一瞬眉を寄せたが、


「いやっ、違う――」

「あはっ!」


 大鎌の斬撃はジャスカーではなく、その手前の地面に向かって放たれた。


 地面が捲り上げられ、土煙が舞い上がる。


(なるほど、目隠しか。だが甘かったな嬢ちゃん――)


 ジャスカーは片方の口角を持ち上げた。


 完全に視界を奪うには土煙の濃度が薄い。

 確かに瑠奈の姿を捉えるのは難しいが、視界の端でチラリとその白い左手が動くのが見えた。


 見間違いではない。

 何かの拍子に傷でも負ったのだろう。

 左手の辺りからは土煙の中でもエーテルの粒子が漏れ出しているのが見えた。


「それじゃ、位置がバレバレだぜッ!!」


 一歩足を踏み込むジャスカー。

 橙色に発光する大剣に渾身の力を込めて――――


「《裂破怒涛》ッ!!」


 ズパァアアアンッ!! と巨岩すら破壊する衝撃波を、零れ出るエーテルの粒子と瑠奈の左手に向けて放った。


 その威力で取り巻いていた土煙が晴れる。

 ジャスカーの視界には、粉微塵に吹っ飛ばされた瑠奈の姿がある――はずだった。


「……は?」


 しかし、狙い違わず衝撃波が駆け抜けた先に瑠奈はいない。

 間違いなく瑠奈の左手はそこにあったはずなのに。


 間抜けな声を漏らした次の瞬間、ジャスカーはゾワッと背筋を襲う悪寒と共に、瑠奈の戦闘IQの高さ――いや、思い付いてもそれを躊躇いなく実行してしまう狂気性を見誤ってしまっていたことに気付かされた。


「油断はしてなかった。だが……甘かったのは、俺か……!」

「あはっ!!」


 ジャスカーは驚きを通り越して呆れすら感じる笑みを浮かべて振り返った。


 そこには、左肩から先に腕のついていない瑠奈が、右手一本で深紅の焔を灯した大鎌を振り上げている姿があった。


「嬢ちゃん、左腕はどこに忘れてきたんだ……!?」

「あはっ、酷いなぁ。さっき、もいでオジサンにプレゼントしたでしょ?」


 その返答で、ジャスカーは自分の予想が恐ろしくも正しかったことを思い知る。


 そう。

 いくら今の自分の身体がエーテル体で、死亡する可能性や痛覚が遮断されているとはいえ、瑠奈が自分の居場所を誤魔化すためだけに左腕をもぎ取ったという事実を。


 何より恐ろしいのが、瑠奈はこれが命の保証がされていない実戦であっても、同じようにしていただろうということだ。


「……頭、イカれてるどころの話じゃねぇぞ……」


 そうジャスカーが呟いた瞬間、瑠奈の金色の瞳がキラリと鋭利に輝き――――


「《バーニング・オブ・リコリス》ッ!!」


 シュバァァアアアアアンッ!!


 その燃え盛る大鎌の刃は、苦し紛れに持ち上げられたジャスカーの武装義腕を斬り飛ばし、その勢いのまま胴体を上下に両断した。


 その後に巻き起こる爆炎が、完全にジャスカーのエーテル体を破壊。


 Sランク探索者認定試験。

 そして、瑠奈のリベンジマッチは、元Sランク探索者ジャスカーのエーテル体完全破壊による戦闘不能によって華々しく幕を下ろした――――

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― 新着の感想 ―
自ら自分の腕をおとりにしての勝利、今回も無茶をしましたね。
更新お疲れ様です。 よしリベンジ成功!まさに肉を斬らせて骨を断つな勝利でしたね…。まぁ斬らせたというよりは、トカゲでも「それは無理ッス」な自切でしたが(驚愕) これで晴れてSランクに昇格かな? そ…
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