頭が良いと思っている新人にクビを宣告した話
女上司の小林さんが、僕にだけ厳しかったのです。人材開発部の研修を担当した人です。
『上原さん。君は、社会人の自覚がないよ。それやめなさい』
『報告書、この表現を使わないで』
だけど、時間が経つと、
『上原さん。二人でお話ししましょう』
となってきました。
僕は
『嫌いな上司とプライベートで話すことはありません』
と言ってやりました。
「上司とは言え。僕に恋愛感情を抱いています。どっちが、社会人の自覚がないんだか。これ、パワハラ相談室に連絡しようと思っています。
でも、今日で研修が終わり配置の辞令が出るんでしょう?あの上司とお別れです。清々しますよ」
ああ、こいつが、太郎か・・・すげえな。俺、出来るかな。俺は人事グループの山田。
俺は、新人の上原さん(22歳)の目を見た。このような場合、目を見て話せと教わったが、こいつは、どうなんだろうか?
「な、どうしたんですか?山田さん」
俺は、辞令書を読めるような向きで渡して、宣言した。
「上原智さん。貴方は今日付で解雇です。試用期間満了を持って、退職です。寮の猶予は一週間をみます。その間も寮費、食費は・・・」
ここで、上原は、信じられない顔をして、叫んだ。
「あの女上司が、嘘の報告をしたな!僕は研修で一番だった。いや、かなり上位だった。山田さん。もう一度、調べて下さい!」
はあ、すげえな。
「あのね。君は、研修期間中に、テストを受けただろ?クレベリン検査と心理テスト
その判定で、君の行ける部署はないと判定が出た。そして、小林さんの研修でも成績と態度は最低だと報告が来たよ」
「何故!」
これは説明が必要だ。
クレベリン検査、簡単な計算問題を連続で解いたりする検査だ。あれ、結構当たっている。
俺はCタイプで受け身タイプだと。
会社や、業界によって、カスタマイズされていて、向き不向きの部署が分るようになっている。
嘘つきが分る心理テストもある。
良くある「貴方は一度も怒ったことはないか?」なんてテストだ。あれ、ワナがあって、矛盾する問題が仕込まれている。詳細は控える。
嘘つきをあぶり出す試験でもある。
上原は、まあ、中堅の大学を出ている。
そして、中堅の大学出身者に、いわゆる特異系が出やすいと思う。あくまでも俺の感想だ。
特異系というと、アニメみたいなものいいだが、
強いて言うと、ムラが多い。嘘つき。自分を優秀だと思っている。
例外に目が行き。基本を軽視しがち。
頑固で、いくら言われても他人の話を聞かない。
自分のやり方に固執する。
学生なら、学校のテストで、難しい問題を解けることもあるが、基本問題でポカしがち。
枠内に解答をかけない等々。
「君、研修中に寝転がって、プリントを読んでいたのだって?」
「ええ、そうです。集中するときにそうします!大学受験の時はそうしました」
マジだったか?
プリントを渡して、30分間読みなさいと言われたら、そのまま外に出て、寝っ転がって、イヤホンをつけて、寝ながら、プリントを読んだと報告が来ていた。
「そして、報告書の訓練では、ネット用語を書いて、いくら注意しても、直さなかったんだって?」
「今はそれが一番分りやすいんです!」
「そして、グループ討論の時は、ピロ雪さんのあれを連呼したんだって?」
「ええ、皆、感想しか言わなかったから、でもクビは酷いです!」
「あのね。だから、小林さんは、君がクビになるから、そうならないように、自主退社の話を持ってこうと、君と二人で話をしようとしたんだよ。今の期間なら、社風が合わなかったで、すませられたのに・・」
・・・昔は、研修中に、皆がいる前で解雇の宣言をしたそうだが、昨今は、控えているのだよな。
・・・話しても無駄だ。こういった場合は、強硬手段だ。
「こちらは法務部と連携しているよ。訴えたければどうぞ。しかし、試用期間中の解雇は、合法と判例が出ている。頭の良い君なら当然分るよね」
「もう、良いです!」
彼は、辞令を受け取らずに怒って出て行った。
しかし、
☆数ヶ月後。
「山田さん!上原君がいるよ!」
会社の駐車場で、小林さんが、助けを求めてきた。
「あの上原さんが、駐車場でウロウロしている!」
「何だって・・・警備員さんに連絡しましょう」
住居不法侵入罪かなんかの現行犯で、警備員さんは、拘束するまでした。
彼の言い分は、
「家を買ってもらおうとセールスに来ただけです!」
「お前、それアウトだ!」
「何故!」
だそうだ。
どこか、不動産販売会社に入ったみたいだな。
うちも不動産売っているのにな。
もしかして、こいつは馬鹿なのか?とやっと思った。
最後までお読み頂き有難うございました。