73 近くて遠い帰り道
外に出る頃には、日が落ち暗くなってきていた。
お昼にはショッピングモールに着いていたがそれなりに滞在していたらしい。
まぁ、買い物以外にも色々あったしな。
帰り道は特に会話も多くはなかった。
それでも気まずいとかではなく、お互いがお互いに心地よいと思っていたのかもしれない。
というのは、俺の思い込みで朝比奈さんは朝からの活動の疲労かもしれない....。
そんな静かな時間を過ごし俺達は最寄り駅に到着した。
「朝比奈さん、帰りは荷物多いしタクシーに乗って帰ろうと思って」
「うーん、柊くんが良ければ歩いて帰りませんか?」
朝比奈さんは少し考えてから提案をしてきた。
もちろん朝比奈さんが歩いて帰りたいと言うならばそれで構わないが荷物が少ないわけではない。
それでも、彼女がそうしたいのならここはそれに準ずるのがいいだろう。
「わかった。じゃあ歩いて帰ろうか」
「ありがとうございます。では、荷物を一つもらいますね」
そう言って朝比奈さんは、俺が持っている二つの荷物のうちの一つをとった。
「別に問題ないから持たないでもいいよ?」
「なんでもかんでも一人ですまそうとしないでください、柊くんは少し人を頼りにすることを覚えてください」
少し小言を言われたが的確過ぎて笑ってしまう。
「優しいお姉さんには紅茶を買ってあげよう」
「なんですか、それ。でもそうですね。食後に二人で飲める物があったら嬉しいですね」
えへへと笑う朝比奈さんを見てリサーチして後日買いに行こうと思った。
二人歩きながら帰路に着く。
思えばなんで朝比奈さんは歩いて帰りたかったんだろうか。
「朝比奈さんはどうして歩いて帰りたかったの?」
「今日は色々ありましたから....最後までゆっくりその時間を堪能したかったんです」
「そうだな。そう言われると帰り道まで堪能したいな」
家に帰ってしまえば今日という一日が終わってしまう。
だから、少しでもこの時間を伸ばそうと、分からないではないその気持ちに頷く。
「そうだ!帰り道にある公園に寄って帰りませんか?」
「また急な提案だな」
「いいじゃないですか。この時間ならきっと貸切で楽しいですよ」
そう言いニコニコしながら先を歩く朝比奈さんについていくのであった。
公園に着くと朝比奈さんの言った通り人の姿は見えず俺達二人の貸切状態でとりあえずベンチに荷物を降ろした。
「本当に貸切だな」
「遊具も遊び放題ですよ」
俺達は一通り遊具を物色し楽しんだ。
懐かしさを感じながらずっと一緒に遊んでいた親友との思い出を思い返す。
別に会えないわけではないがこっちに引っ越してきて忙しさを理由に連絡もしていない。
それに、いつ会っても連絡してもこの間の続きかのような関係性なのだ。
とは言ってもそろそろ連絡するかとスマートフォンを取り出した。
「久しぶりの遊具ってちょっと面白いですね。それに柊くんも意外とノリノリで遊んでましたし」
「そうだな。昔みたいにエンドレスで遊ぶのは流石に無理だけど....俺だって昔は公園でよく遊んでたぞ」
「それは意外ですね、お友達とですか?」
俺は今まさに連絡を送ろうとしていた親友とのトーク画面を朝比奈さんに見せた。
「親同士が仲がいいのもあるんだけど、小さい時からずっと一緒だったんだよ」
「そうだったんですね。柊くんがそういう風に紹介するって事はとても信頼されてる方なんですね」
俺は開いていたトーク画面にスタンプを一つ送りポケットにしまった。
「俺の事情を知ってても同情なんてないし気にも止めないでただ一緒に遊んでくれたんだよ。でもさ、それが嬉しかったのかもな」
それ以外にもあいつに救われた事はいくらでも思い浮かぶ。
「私も一ノ瀬くんの事、大切にしてますよ」
「それはまた、どうして」
「あなたが私の事を大切にしてくれてるからですよ」
「そりゃあ、朝比奈さんみたいな綺麗な女性なら誰でも優しくすると思うけど」
「便利な言い訳ですね。全く....あなたは私じゃなくても誰に対しても誠実でとても優しいお方ですよ。今日の一件でもそれを証明してるじゃないですか」
「あれは、俺のエゴだよ。自分が放っておけなかっただけだ」
最後の言動なんかは特にそうだ、言わなくていい事さえも俺は伝えたのだ。
「バカですね、あなたって人は。私欲だったかもしれません。でも、経験があったからこそあの言葉が言えたのでしょう?たとえ自分の暗い過去かもしれないけれど、あなたは誰かの為にそれを伝えた。それだけで十分ですし、とってもかっこいいじゃないですか」
「そうだと嬉しいな....でも、あの人たちに救われたよ」
自分の過去に少しでも意味を持たせてくれたのだ。
それだけでありがたいと言っていい。
「ふふっ....それは良かったです!それではそろそろ帰りましょうか」
朝比奈さんに手を差し出されながら言われ首を傾げる。
「えっと....」
「今日一日手をつないで歩いてる人を見る機会が多くて、その、羨ましいなって....」
恥ずかしそうに頬を染めながら朝比奈さんは言った。
「俺達は似た者同士かもしれないな」
「似た者同士....?」
「俺も今日同じことを思ってたんだよ。だからさ、俺なんかで良ければ」
手のひらを差し出すとそっと手を置かれた。
俺は置かれた小さな手を優しく掴み歩き始めた。
誰かと手を繋いで帰るなんて小学生以来で少し気恥ずかしかったが、嬉しそうに笑う朝比奈さんを見ることができたのでお釣りがくるレベルだろう。
「誰かと手を繋いで帰るっていいですね」
不意に言われた言葉に心臓が跳ねた。
「次に誰かと手を繋いで帰る時は、朝比奈さんにとって大切な人だといいな」
この関係性は一時にすぎない。
だからこそ、俺は願うように彼女に言った。
「柊くんはもう繋いでくれないのですか?」
「俺より朝比奈さんにとって大切な人の方がいいんじゃないか?」
「さっき大切な人ってお伝えしましたよね」
繋いだ手に力が込められたが、か弱い力がかわいく思えてちょんちょんと手を握り返した。
「バカにしてるでしょう」
「してません」
「絶対バカにしてます!」
怒っているのに一切手を離さない朝比奈さんと家へ帰るのであった。




