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人間不信の俺が恋なんてするわけがない。  作者: 長谷川雫
第一章

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71 見過ごせなかった背中

  俺は鞄から取り出した封筒から現金を取り出し、手元に残す分だけ抜いてATMへ預け入れた。


紙幣を計測している間ちらりと後ろを見ると、朝比奈さんは少し離れた椅子に座り、こちらの様子を見守っている...というより俺の後ろに変な人がいないか周りに気を配っているといったところだろうか。


紙幣を預け終わり吐き出されたキャッシュカードを受け取り朝比奈さんの元へ戻った。


「ちゃんとお金預けましたか?」


「預けたよ、それに朝比奈さん後ろから見てたから不正もしてないよ」


「はぁ....まったく。何を買おうとしてあんなに現金をもっていたんですか....」


「その辺で勘弁してください。お財布の中も正常化したので....」


俺は財布を開き朝比奈さんに見せた。


「手元に残した金額も多いような気もしますが、柊くんの日頃の買い物考えると必要そうですね」


妥協点といったところだろうか....朝比奈さんからのお許しが出たので俺は苦笑いしつつ財布をしまった。


「では、帰りましょうか。一ノ瀬くん一人で持てますか?」


 朝比奈さんの足元に置かれている先ほど買った代物は陶器と言うこともあり、店員さんが紙袋を二つに分けてくれたがそれなりに重い。


とはいえ朝比奈さんに持たせるのは忍びない。


最寄駅からはタクシーを使う予定なのでそこまで長い間持つわけでもないし、意地だなぁ。


「意外と持つ距離は長くないから大丈夫だよ」


「割れ物なので無理しないでゆっくり帰りましょうね」


「そうしてくれると助かるよ」


 出口に向かい歩き始めると、小さい男の子が泣きながら佇んでいるのが見えた。


大きい商業施設だし、小さい子が泣いている事を見るのは珍しい事ではない。


微笑ましいその光景を横目に、通り過ぎようとした。


「あの子一人ですかね?」


朝比奈さんも気づいていたらしく心配そうにつぶやいた。


「流石に近くに親御さんがいるんじゃないか?」


「そうだといいんですけど....」


そんなやりとりを終えたあとも親御さんらしき人が迎えに来る事はなかった。


普通なら、近くいればすぐに駆け寄ってくるはずだろうし....。


「朝比奈さん、俺ちょっと行ってくるよ」


このまま帰っても後で思い出して後悔するだろうし。


それに、一人は心細いよな。


俺は小さい頃に自分が体験したことを重ね、一人泣き叫んでいる男の子の元へ向かった。


「こんにちは。迷子になっちゃった?」


男の子と視線をあわせ聞いてみると、わんわんと泣きながら子供特有の直感なのか近くにいた俺に勢いよくしがみついてきた。


「大丈夫だ、一人じゃないからな」


感情をそのままぶつけられる素直さに、どこか羨ましさを覚えながら俺は落ち着かせるように頭を撫でた。


「大丈夫ですか!?」


「大丈夫、とは言えないか....」


目の前に広がる光景を前に大丈夫とは言えず、とりあえずはこの子が落ち着くまではどうすることもできない。


動こうにも動けず、悩んだ末に男の子を持ち上げ近くにあったソファーに座った。


「ごめんね、朝比奈さん。もしあれだったら先に帰ってもらっても大丈夫だよ」


そう言って顔を上げた瞬間、おでこに軽い衝撃が走った。


「あのねぇ、柊くん。この状況下で私が帰ると思っているなら心外です」


「そうだよな、今のは俺が悪かったです...ごめん」


「わかればよろしいです。それにしても困りましたね...」


 だんだんと泣き止みつつはあるが、それでもあれだけ泣けばその余韻ですぐには喋れないだろう。


「迷子センターに向かいながら飲み物でも買いに行こうか」


「そうですね、親御さんも心配していると思いますしそれが良いかと」


方針は決まったものの動くには手荷物が多い。


「朝比奈さん、申し訳ないんだけどこの荷物コインロッカーまで持ってもらってもいいですか?」


「もちろん!任せてください」


俺達は迷子センターを目指しながら歩き始めた。


コインロッカーに荷物を預け入れた頃には、男の子の泣き声もすっかり弱まり、胸の中で小さくしゃくりあげるだけになっていた。


俺と視線が合い赤く腫れた瞼をぱちぱち瞬かせながら、頼りなげに俺を見上げてきた。


「喉乾いたか?」


俺が問いかけるとコクンと小さく頷いた。


 近くにあった自動販売機に向かい硬貨を入れた。


「好きな物選んでいいよ、何が飲みたい?」


「これ...」


遠慮しがちに指さされた飲み物を購入した。


落ちてきた商品を朝比奈さんが取り出し男の子に差し出した。


「おねーちゃんきれい....」


今まで俺の肩に顔をうずめ泣いていた為、初めて見る朝比奈さんに驚いていた。


視線が俺の方に向き同意を求められているのか、それとも恥ずかしくなってしまったのか。


「お姉ちゃん綺麗だよな。俺の学校でも人気者なんだよ」


俺も同意して教えてあげるとコクコクと頷いていた。


「もう、何言ってるんですか!」


朝比奈さんは顔を赤らめながら恥ずかしそうに怒っていた。


 ソファーに座り男の子を降ろし飲み物を美味しそうに飲んでいるのを見守った。


「おねーちゃんありがと」


「お礼ならお兄ちゃんに言ってあげてね」


朝比奈さんに言われると大きく頷いた。


しっかりとお礼を伝えてくれた男の子の頭を撫でた。


「えっと、名前聞いてもいいかな?」


「かずと」


「教えてくれてありがとう。俺の名前は一ノ瀬柊、こっちのお姉ちゃんは朝比奈月さん」


「しゅう...と、るなお姉ちゃん?」


たどたどしく名前を呼ばれ、そうだよと頷いて教えてあげる。


「かずとくんは迷子になっちゃったのかな?」


そろそろ本題に移るべく俺は喋れるようになったかずとくんに問いかけた。


「まいご...じゃない」


首を振りながら答えたかずとくんはまた泣きそうになっていた。


「じゃあ、どうしてあそこで泣いてたのかな?」


「パパとママがけんかして...それがいやだったから」


俺はかずとくんが発した言葉にちくりと胸が痛んだ。


….自分がよく知っている過去が結びつき、かずとくんに対してなんて言葉をかけたらいいのかわからなかった。

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