67 期待と距離感
俺は帰ろうとする朝比奈さんを呼び止めた。
別に次の機会でもよかったのだが、早めに言っておいた方が何事もいいということで。
「えっと、この間、買い物に誘った奴なんだけど、朝比奈さんの予定がよければ今週の土曜日とかどうかな?えっと、練習の後になっちゃうんだけど....」
運動した後に買い物どうかとは思ったが、朝早くからお昼までと短めの時間に設定しているので時間的には問題はないだろう。
「別に構いませんけど、それでしたら日曜日とかの方がよろしいのでは?」
「えっと、そんな毎日俺にあってて嫌じゃないか?」
「しばらくは一緒に食事をする約束をしているんですから、毎日会うじゃないですか」
俺は朝比奈さんの返答に「確かに」と頷いた。
そもそもの話、それが理由で買い物に誘っているのだ。
「おかしな人ですね、一ノ瀬くんは」
「えっと、じゃあ土曜日の練習後より、日曜日の方がいいっすかね?」
「一ノ瀬くんは一日に用事をまとめて次の日はゆっくりお休みがいいですか?」
土日どちらをとってもショッピングモールは人が溢れかえっているだろうし運動した後に行くのは億劫ではあるが正直一日で予定を済ませるならそれに越したことはない。
一日家でダラダラとのんびり過ごせれば月曜日の学校にはある程度回復しているだろうし。
「俺は一日でまとめて行けたら次の日はダラダラ過ごせるなって思ってるけど、朝比奈さんは平気?」
「私は全然大丈夫ですよ。逆に一ノ瀬くんは体力的に平気ですか?運動の体力と人混みに行く体力はベクトルが違うと思いますが....」
「多分平気一日2回行動くらいなら...」
「きつそうだったら当日にでも言ってくださいね?また倒れられても困りますから」
「了解です」
自分的には平気と思っているが、朝比奈さんからしてみればあの一件から来る心配があるのだろう。
貧弱なイメージをどこかで払拭しないとな。
あの時は本当によくない事が重なっただけなのだ。
「朝比奈さんも無理しないで当日きつかったら遠慮せず言ってくれて全然いいからね」
「そうですね、私も人の事を言えたものではないのでそうさせていただきます」
「じゃあ一旦それで。遅くなっちゃってごめん。送るよ」
「楽しみにしておきます!わざわざ大丈夫ですよ?」
「置いていくやつもあるけど一応荷物もあるし、女性一人で帰らすのはちょっとね」
「あなたほど用心深くて女性に優しい人なんて貴重な殿方ですね」
「そりゃあどうも、じゃあ帰ろうか」
俺は持ってきてくれた荷物を手に取り朝比奈さんを自宅まで送り届けた。
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土曜日、朝からお昼にかけて練習を終えた俺たちは公園のベンチに腰掛けて少し休んでいた。
「どうでしたか?今日の練習は?」
「朝比奈さんすごいね。この間言ったことや、今日指摘したところをどんどん改善していってるよ」
「それはよかったです。何も変わってなかったから悲しいですから」
彼女は運動が苦手だと言っているが、実際のところ彼女の中でのハードルが高いだけで飲み込みも早ければ動きも全然いい方である。
体力消費を多めな練習にして本番一回分全力で走れるようにもっていければってところだ。
「朝比奈さんの今日の練習は終わりだから少し座って休んでて」
「一ノ瀬くんはどうするんですか?」
「最後一本走って終わろうかなって、自分で想定してたより動かなかったからね」
「そうでしたか。ではこちらで休んでおきますね」
俺は首にかけていたタオルをベンチに置き、スタートラインに向かった。
本番を想定してバトンを受け取るイメージを持ってリードしながら、自分の中のベストタイミングでつま先に力を込めて加速した。
俺の今の体力では最後まで全力で走るのは少々厳しさを感じているが足の回転を弱める余裕はないだろう。
たった一回一レースくらい最初から最後まで全力じゃなければならない。
総合結果なんかはどうでもいい、ただ対抗リレーだけは絶対に負けたくない。
みんなを巻き込んでしまって、背負わせてしまった。
そんな優しい人達を絶対に笑いものなんかにはしない。
俺はそのままゴールの距離まで走り切った。
走り切ると俺はトボトボとゆっくり朝比奈さんが待つ方へ歩いて向かった。
「ごめん....お待たせ」
息が上がりすぎているせいで言葉を発するのにも時間がかかってしまう。
やはり俺の課題も体力面だろう。
「とりあえず、息が整うまでゆっくり座ってください」
朝比奈さんから飲み物を受け取り隣に腰掛ける。
飲み物を飲み干すと俺は呼吸が整うまでゆっくり深呼吸した。
「大丈夫ですか?」
朝比奈さんが心配そうに顔を覗かせた。
「問題ないよ、それにこれじゃあ勝てないしね」
「そうですか、でも私は未来が見えました」
「未来?」
「みんなでバトンを繋げば最後は、一ノ瀬くんがなんとかしてくれるって」
「よくそこまで人を信じれるね朝比奈さんは」
「信じれきゃ何も始まらないじゃないですか」
その言葉を聞いた俺は色んな事が頭に過った。
….朝比奈さんに対し返答も見当たらなければ、イラつきさえ覚えた。
頭を冷やそう。
誰かに当たるのが一番最低な奴になってしまう。
俺は近くにある水道に向かい蛇口をひねり、頭を放りこんだ。
….信じなきゃ何も始まらない?
じゃあ、信じた先で裏切られたらどうする。
それが親しい身近な人だったらどうする?
期待して、信頼した自分が哀れで人を信じた事がバカだったと後悔するだけだ。
俺は蛇口を閉め水を止めた。
「タオルを置いて頭を濡らすお馬鹿さんは一ノ瀬くんくらいですね」
「そうかもね」
俺はタオルを受け取り髪を拭いた。
「帰ろうか」
「ですね。お買い物楽しみです!」
「昼ごはんもあっちで食べようか」
朝比奈さんは目をキラキラさせながら頷いた。




