妹を探す
三題噺もどき―にひゃくきゅうじゅういち。
「――ここが」
―人形屋敷。
ぽつりと漏れたその声は、暗闇に呑まれた。
:
数日前。
私の妹が、行方不明になった。
突然、何の前触れもなく、忽然と消えた。
妹は、昔から好奇心旺盛で、すぐにどこかに行ってしまうから。
その日も、どうせそんなだろうと大人たちは、たいして気にもしていなかった。
―けれど私は、どうしても、ぬぐい切れない不安があった。
「……」
その不安は、現実となって帰ってきた。
いつもなら、その日のうちに帰ってくる。遅くてもその日の夜中のうちには帰ってくる。
それなのに、妹は、帰ってこなかった。
本当なら、その日に帰ってこなかった時点で、探しに出るべきだった。
「……」
全てが手遅れだった。
何もかもが遅かった。
気づいた時には。
父も、母も、他の村人も。
―妹のことを忘れていた。
「……」
きれいさっぱり。
お前に妹なんてものはいないと言われた。そんなわけない、絶対にと、何度も行った。みんなおかしいと、何度も叫んだ。
けれど、そんなことを今になって言い出す、お前の方がおかしいと一蹴された。
父にも母にも言われた。
他の村人は、悪魔にでもとり憑かれたのではないかと、忌避するようになった。
「……」
なぜ。
どうして。
あの日すぐに探さなかった罰だろうか。
「……」
他の人は、そう言っても。
私の記憶の中には、確かに妹がいた。
彼女の好きなものも、嫌いなもの知っている。
好きな食べ物も苦手な食べ物も知っている。
幼かった彼女を抱いた記憶だって、残っている。
「……」
それでも誰も信じてくれない。
だから、私は、1人で探した。
「……」
悪魔に憑かれていると言われたって、何だっていい。
1人で必死に、彼女の行方を捜した。
過去に行ったことがある場所、あの子が楽し気に話していた場所、行ってみたいと言っていた場所。
全て。
全て。
記憶の限りに。
「……」
それでも、あの子は見つからなかった。
こんなに探している間にも、あの子の身に何が起こっているかわからないのに。
どうして。
どうして。
不安と焦燥にかられるばかりで、手掛かりは何もなかった。
「……」
途方に暮れ、あの子の記憶をただひたすらにたどっていると。
1つのおとぎ話を思い出した。
これも、あの子が話していたことだ。
「……」
森の奥に。
1つの大きな屋敷がある。
そこは、たくさんの人形であふれ返っている。
実は、その人形は、魂の器になるもので、屋敷の主人が、気に入った人間の魂を入れるために用意されているらしい。
屋敷の主は、清らかな魂を好み、融解しては人形にいれ、愛でていると言う。
「……」
なぜそんな話をしたのかもわからない。
けれど、思いだした瞬間、ぞわりと嫌な予感がした。
正直、話半分で聞いていたし、そんなものはないだろうと思っていたから、今になって思いだした。
あの子は、攫われたのだろうか。
「……」
もう、これしかない。
あの子のことを、探さないといけない。
:
時計の針がちょうど真上をさす頃に。
家を抜け出し、森の奥へとかけてきた。
「……」
いま、目の前に。大きな屋敷が立っている。
まさか、あるとは思っていなかった。
ここに、あの子は居るだろうか。
「……」
あの子は、ここに。
あの子は―あのこ、あのこ……。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……ぁれ?」
お題:人形・悪魔・時計