乾坤一擲なるか
フィンフィンフィン……
それは機械の駆動音なのか。それとも天翔る船の風切る音なのか。
だがデボンが零したように、確かにそれほど速度は出ていない。
しかし天翔る船はやはり巨大であったのだ。それがしずしずと進んでゆく様は、やはり威容と言わざるを得なかった。
そして、その後ろにはシュンがまとめる兵士達だ。
向かう方向は北。「アイアンフォレスト」要塞址。
それはレッギ山地を目指すことになるので、次第に勾配がキツくなってゆく。
だが幸いと言うべきか、空は快晴であった。
「――もうまもなく集団は『アイアンフォレスト』址を突破すると。いえもう突破しているのでしょう。隘地を通過すると言った方が正確かと」
シュンの元に入ってきた情報を、艦橋のマクミランが中継する形だ。
自然とそういう配置になっていた。
「じゃあ、なんとか間に合いそうだな」
「ええ。デボン、高度を上げて」
デュークがそう応じ、パシャが予定通りの動きをするようにデボンに告げる。
すでに船は「アイアンフォレスト」址を見据えていた。
「わかってる……けどこれは慣れないから……」
「練習ではちゃんと出来ていた。一回で成功させる必要も無い。動力にも余裕がある」
不安がるデボンに、パシャが慰める様に声をかける。
デボンの役目はレッギ山地に船首を向けて、山地に向けた坂道を見下ろす形で船を固定させること。
固定に関しては、パシャの役割になるのでデボンはただひたすらに船のバランスを取ることが優先された。
それほど難しくは無い。現に「ポッド・ゴッド」の近くでは、デボンは同じ動きを何度も成功させている。
その感覚を思い出してくれれば――
「集団、レッギ山地を通過」
マクミランが冷ややかな声で告げる。
あるいはそれがデボンの背中を押したのだろう。
フィンフィンフィン……
船は高度を取り、狂乱する人の集団を吐き出し始めたレッギ山地の裾野を見下ろした。
「まだだ。もう少し……少しだけ下がって……頭をもう少し上げて……」
そこでデュークが船の姿勢に細かい修正を入れている。
それはデボンを追い詰めるかのようであったが、それは実際に北の集団を目の当たりにしたデボンの動揺を慮っての事だろう。
目の前の作業に集中させれば、動揺している暇は無い。
それに実際、こういった修正は必要だったのだろう。
「ようし! ここだ」
「固定します。デボンやったぞ」
「ふぃ~~~」
デュークの声が響き、船は空中で固定されデボンは仕事を全うした。
「操縦も今はデュークさんに任せる事になるんだよな? 無事に僕を帰してくれよ」
「帰りはやっぱりデボンに動かして貰うけどな」
デボンはようやく力を抜くことが出来たらしい。
パシャが、その苦労を称える口調でそれでも混ぜっ返す。
こういったやり取りがスピードの向こう側を目指しているときには、幾度となく交わされていたのだろう。
そして残りの一人、デュークは眼下の光景を見つめる。