きっと禁断の近似値
時間との勝負。しかし時間をかけても、報われるとは限らない。
北において集団が通り過ぎた後に、果たしてこの事態を打破できる手がかりが残っている保証はないのである。
これは賭けだ。
それもかなり分が悪い。
だが、そこに希望を見出すしか無い。それほど追い込まれているのだ。
それでも以前は賭けることも出来なかったのだ。
しかし今は「通信機」がある。
おかげで北にいる「クーロン・ベイ」の調査員と連絡を取ることが出来るのだ。
そして――
「……集団からはぐれた者がいる?」
「はぐれたというよりは、正気に戻った、という方が近い」
とりあえずの賭けには勝った様だ。
マクミランの伝手で、妖精族の集落に匿われていた人物とミロの部下は接触できたのだから。
妖精族に残っていたマクミランの知人、スパイクが便宜を図ってくれたことも大きいだろう。それによって入手出来た情報とは、どうやら集団が一種の狂騒状態であるということ。
そして集団の参加者は、自分の意志とは関係なく巻き込まれているということ。
それが正しい把握だったようだ。
はぐれた者は、集団の中で体勢を崩し、踏まれた挙げ句の全身打撲と引き換えに正気を取り戻したらしい。
それは幸いと言えるのかどうか。
だが「ポッド・ゴッド」で待ち受けるデューク達にとっては朗報と言えるだろう。
少なくとも「アイアンフォレスト」要塞址を突破される前に、集団の特性が判明したのだから。
「で、どうするか? ……って話になるんだが――」
デュークがそう口に出したが、その表情は賭けに勝った者の様には見えない。
狂騒状態を冷ます手段としては、結局の所戦うしか方法が見出せないからだ。
いや――
「ポッド・ゴッド」の者は知っている。
この状態から、なんとかしてくれる者がいることを。
その人物は今、作戦指揮所に招かれていた。
三白眼をギョロつかせて、真摯に状況説明を聞き続けていたその男は言うのだ。
いつものように。
「《《こんなこともあろうかと》》」
と。
~・~
しかしこの事態に、パシャはどうするつもりなのか。
「念のため確認しても? もう行わなければどうしようもない様に見受けられますが、緊急なんですよね?」
「それは間違いない。君に何か打つ手があるのなら、それが最優先だ」
実際「ポッド・ゴッド」も「クーロン・ベイ」もすでにそういう体制で動いている。ウェストは自信を持ってそれを肯定する。
それを確認したパシャは深く頷いた。
「では、少し強引になっても許して貰いましょう」
パシャは五人を引き連れて「ポッド・ゴッド」を出て、北の平地をと向かう。
そして、片手を挙げると――
「う、うおおおおおおおおおお!!!」
空前の光景が出現した。