辞める条件
とはいえマクミランにとっては「パシャを観察する」という大義名分があった。
二人には明かしていないが、彼が「ダイモスⅡ」にこだわる理由はそこにある。
とは言え、今では屋台のみならず、新酒運搬車、乗り合い車、その整備と管理についてもなし崩し的に受け持っているので、半分参事官の様な状態だ。
だからこそパシャが相変わらず「ダイモスⅡ」にこだわって、新たなアイデアにもあまり軍事的な色が見えないことに喜びを感じている。
パシャも、あるいは同じ部分に喜びを見出しているのかもしれない。
何しろ、今パシャが請け負っているのは「ポッド・ゴッド」の港湾造成計画である。
参事会から、と言うより「やっぱり喫水線が深い方が良いんじゃないか?」というデュークからの無茶振りで、関わってしまったのが運の尽きだったのだろう。
結局参事会からも――あるいは「クーロン・ベイ」からも――注目を集める計画になってしまっている。
現在は海を凍らせて、それによって水の浸入を防ぐ工法を試みているが、上手くはいっていないようだ。
その間に新たな屋台に、乗り合い車などを実際に作るのはパシャであり、それにも日々改良を行っている。
到底「ダイモスⅡ」に関わっている時間は無いはずなのに、こうやって新たなアイデアを出してくる。
やはりパシャ自身が「ダイモスⅡ」に関わることに喜びを感じているのだろう。
それがミオにも伝わってくるのだが、やはり「ダイモスⅡ」に関しては二人の足を引っ張っているようにも感じてしまうのである。
「……確かに、ミオさんは頼もしくなりました。少なくとも帳簿を気にするようになってくれましたし」
ミオが言葉に詰まっている間に、マクミランが機先を制するように声をかける。
そこでミオは反射的に、
「それならマクミランさん。ウチにいてくれるのは有り難い話ですから、それはとりあえず置いておいて、イブさんとちゃんと話してください」
「また、それですか……」
マクミランが苦笑を浮かべる。
最近はミオも直接「イブとくっつかないのか?」と尋ねることが多くなっている。
確かに、二人がそういう関係になれば自然にマクミランは「ダイモスⅡ」から離れてゆくことになるだろう。つまりミオにとっては一石二鳥なのである。
「じゃあ『ミオさんに恋人が出来たら』という条件で、マクミランさんも前向きに考えてみるのはどうでしょう?」
そこにパシャが提案してきた。
「な」
とミオは声を上げるしか無いわけだが、マクミランはもっともらしく頷いた。
「そうですね。そういうことであれば、私も考えてみましょう。デュークさん達の結婚式がいいきっかけになるかも知れませんし――もちろんミオさんの、ですよ?」
「……きっかけも何も、好きな相手もいないんですが……」
ミオが消え入りそうな、それだけ言い返す。
どうやら、今回も二人に丸め込まれてしまったと諦めながら。
とにかくデュークとマリーの結婚式が終わってからだな、決意を新たにして。




