北へ
「誰かが匿っているとか、そういう話か?」
「いや、それは大丈夫です。そこはミロっていう人がしっかりやってくれたんですが……」
デュークの質問に答えながら、シュンはさらに声を潜めた。
「ミロはさらに追放された面々を追跡調査したんですよ。街に舞い戻られると、騒動の種ですからね。ですから街にいないことも、戻ってきてないことも確実なんですが、それがどうも……」
「どうも?」
引き込まれたようにデュークが繰り返した。
ウェストも大きい身体を縮めて、シュンの言葉を聞き逃すまいとしている。
「……北に向かったようなんです」
「北……」
ウェストが難しい表情で、その言葉を繰り返した。
「それは……珍しいのか? 北に向かうっていうのが」
デュークが肝心な所を確認した。
シュンは頷きながら、説明を続ける。
「過去にも追放刑は実施されています。こういう場合、通常なら西に向かうようです。西には『クーロン・ベイ』に匹敵するような街がありますからね」
「それもそうだな。今まで街を仕切ってるなら西に伝手があると考えても良い」
シュンの説明で、デュークは納得した。
確かに、西に向かわないことには違和感がある。
それになにより――
「北には『クーロン・ベイ』の農村が広がっている。保守派にとってはむしろ危険かもしれない。それに、そこを通り抜けても……」
ウェストの言葉が途中で止まった。
言わずもがな、というものなのだろう。
北にはかつての帝国があったのだ。「クーロン・ベイ」にとっても宿敵と言っても良い。
今はなくなっているとは言え、果たして北に向かって何があるというのか?
当たり前の話だが、北に伝手があるような保守派の面々はいない。
いや、それについてはシュン達、革新派の面々も同じ事だ。
だからこそ北に向かった旧・保守派の面々の動向が掴めないのである。
「……と言うことでしてね。ちょっときな臭いんじゃないかと。ただこれを言いふらすと『クーロン・ベイ』の能力に問題があるように見えますので」
「それに保守派が悪あがきしてる場合でも、それはそれで恥ずかしいな」
デュークがシュンの立場を察した。
「とまぁ、そんな話もあると。伝えることが出来てなにより、とは言えませんがそんな気分です」
「そうですね。我々は肝胆相照らす仲になったとすれば、それはそれで成果です」
ウェストが如才なく応じ、「ダイモスⅡ」の歓迎会と秘密会議は無事終わった。
そう。「ダイモスⅡ」なのである。
パシャが控えるこの店で話が出来たことが、最大の利点だとデュークは考えていた。