だが陰謀にも思えず
そういった違和感がパシャの周りで起こっている。それも一度や二度では無い。
マクミランはずっとその違和感を感じていた。
だから街中にそびえるサイロのような酒樽を見て首を捻る。
そしてそういった違和感についてはマリーの方が強烈に持っている《《べき》》であったのだ。
「ダイモスⅡ」にある地下室。ちょこまかと動くゴーレム。
宙に浮く荷車に冷却装置。
違和感を覚えて然るべきなのだ。本来は。
それが今となっては普通の風景として受け入れてしまっている。
何故そうなったのか?
「……つまるところ、それが便利だった、って事なんだろうな。特に身の危険も感じない」
恐らくはデュークの言うとおりなのだろう。
まず受け入れるべきだという前提があれば、やがて違和感は「気のせい」にして仕舞い込むことが人間には出来るのだ。
ましてや、それがあることで生活が便利になってゆくのなら……
「実際、俺も『なにかおかしい』とは思うよ。思うけど、それだけだ。これでパシャにつきまとう違和感を全部無しにしたいとは思わねぇもん。まだまだスピードをだな……痛って!」
頭のおかしいことを言い出した婚約者をつねるマリー。
確かにスピードに取り付かれたデュークの発言はおかしいが、パシャのやってきたことを今更排斥は出来ないとは、マリーも感じている。
そしてそれはマクミランも同じ考えだ。
だが、どうしても違和感、いや彼自身のこだわりが残る。
「ですから私はパシャさんを見続けていこうと考えてるんです。――もっとも今のところは“気の良いおじさん”以上には思えないんですけどね」
気の良いおじさん。
確かに今のパシャを見る限り、それ以上に適した評価の仕方は無いように思えた。
マクミランの言葉にデュークも頷いた。
「そうだな。気付いている者は気付いてはいるんだろう。だが、無理に騒動を引き起こしたくは無い。皆がそう思っているなら、きっと平和さ」
「じゃあ、デボンさんやパシャさんを巻き込んで、おかしな遊びに精を出さないで」
マリーの言うこともまたもっともである。
デュークは目をそらすように新酒を呷り、その後はマクミランと先の戦争について、語り合うことに終始した。
それは体験を歴史に変えてゆく儀礼にも似ていた――
~・~
そして現在を作る者達は、同時に歴史の紡ぎ手もある。
ようやくのことで「クーロン・ベイ」においても後始末にケリがついたようだ。
本来ならもっと早くに行うべきイベント――「ポッド・ゴッド」への感謝を表す「クーロン・ベイ」代表者による表敬訪問。その段取りが決まった。
もちろん「クーロン・ベイ」の新たな主席の座についたシュンがやってくるのである。