肌の記憶
マクミランはさらに続ける。
「一体誰が……ああ、店長ですね。私を『ラスシャンク・グループ』に戻したいみたいでしたから」
この場合の「店長」とは無論、ミオのことだ。
それにしても「クーロン・ベイ」に向かう者達に、こういった話をばらまくとは――と、そのやり方にマクミランは思わず笑みを浮かべる。
そんなマクミランの様子に興味を覚えたデューク、それに調理が終わったマリーも加わって、マクミランに経緯を確認する。
マクミランはため息をつきながら、自分とイブ達の関わりを説明した。
それ以前、イブがミオに行った説明とほぼ同じ内容ではあったが、当たり前にそこにマクミラン自身の心情が加えられている。
「……帝国の膨張に為す術が無かったんです。気付けば全てが手遅れでした」
マクミランは淡々と告げるが、その言葉の端々からデュークは無念さを感じていた。
同じ傭兵出身であるからこそ、なのだろう。あるいはデュークだからこそ、マクミランは話したのかもしれない。
「私は結局、その埋め合わせのために何か仕事をしていたかったんです。敗北の虚しさを埋めるために」
「……でもそれじゃあ、いつまでも『ラスシャンク・グループ』に戻らない理由にはならないよな?」
デュークはマクミランの心情に理解を見せながらも、チキンを囓ってそう呟いた。さすがにマリーが止めようか迷ったが、彼女は知らないのだ。
どうして二人がデュークの家で話し込むことになったのか。
誰の発案でこの状況になったのか。
「――俺はずっと気になっていた事がある。少し前の『クーロン・ベイ』での騒ぎに関係したことだ」
そう。
そもそも話を持ちかけたのはデュークなのである。
「そこから、さらに記憶を遡ればミオちゃんのやってる店――」
「『ダイモスⅡ』ね」
「――そう、その店に連れ込まれたとにあんたもやってきた。その時のあんたの助言も有り難がったんだが、それより気になったのはあんたがパシャを見る目だ」
デュークの目に熱が帯び始めていた。
そしてそれはマクミランも同じ事。一見脈絡が無いようなことを言い出した。
「――デュークさん。先の帝国での戦いの間にパシャさんをご覧になったことは? 味方では無く帝国に」
その問いは、確実にデュークの虚を突いていた。
一瞬、デュークとマリーの呼吸が止まる。
だが、それで二人は理解出来た。ここまで明け透けにマクミランが自分の経歴を説明した、その理由をだ。
だが、そうなるとデュークが自分を誘った理由についても、マクミランは察しているということになる。
デュークはそこまで理解して、新酒を呷って自分の驚愕を飲み込んだ。
「……どうやら俺の違和感も、一人だけの思い込みじゃあ無いらしい」
デュークの口元を、新酒の泡が彩る。