右往左往
「一心不乱のデューク」の勇名は、まだまだ通用した。
さらに「クーロン・ベイ」が先の戦いで徴兵した者達は農村に戻って、健在だった者が多くいたのである。
こういった者達を集める見込みは確かにあったわけだが、それにしても五日でそれを行うのは無茶、いや不可能と言っても良い。
その不可能を可能にしたのはデボンである。
いや、正確には速度特化した荷車とデボンのスピード狂。
耕作地として切り開かれている農地は、どこまでも真っ直ぐで平面だった事も大きい。
「これなら行ける! どこまでも『凪』だ!」
などというデボンの発言は完全に狂気の向こう側であったのだが、この速度もまた、かつてのデューク復活を証明することになったのは皮肉と言えるだろう。
まずは熱狂があったのである。
そしてデュークはその熱狂を確かに制御して見せた。
あっという間に段取りを整えると、参加してくれる全員をバラバラにして「クーロン・ベイ」に向かわせたのである。
ここまででわずか四日。デボンはそれを伝えるために「ポッド・ゴッド」ヘ帰り、これで挟み撃ちの用意は整ったと言うわけである。
だがデュークの狙いはあくまで挟み撃ち出来るような状況を作り出すこと。
それだけだった。
このまま戦いに雪崩れ込み、死者や怪我人を出すことは心底馬鹿らしいと考えていたのである。特に自分の名で集まってくれた農民達に面倒をかけてはいけないと。
だが、それを逆に考えるなら怪我人さえ出なければ何でもやったと言うことだ。
デュークはかつての直属の部下達を組織し、馬を与え連絡係にした。
そうやって出した指示は「とにかく騒げ」。これだけである。
しかし、その命令は臨時に組織された各部隊ごと、と明確に指示されていた。
その段取りによって「クーロン・ベイ」の中で起こった事とは――
「なんだよ!? 攻めてこないのか?」
「こっちは陽動らしいぞ! 今度は東だ!!」
「なにぃ!?」
衛兵達は「クーロン・ベイ」都市部を東へ西へと右往左往。
散々に引っ張り回されたのである。
これは南の港に怪しげな巨船が出現したことも深刻な影響を与えている。
衛兵の半分はそちらにかかりきりになっているのだから、人数不足にもほどがあるといった状況なのだ。
さらにユウキ卿達、保守派が繰り出す無茶な指示がさらに衛兵達の体力を削ってゆく。
結果、衛兵達の配置の偏りだけではなく、体力的にも「クーロン・ベイ」の中では空白が生じてしまったのである。
そして、この機会を待ち望んでいた集団があった。
さる商家の倉庫に潜伏していた革新派である。コンゲからの連絡でじっと雌伏していたのだ。
だが今こそ逆転の刻――