人身御供
巨船中央。その胴体の中央から何かが盛り上がってゆく。
その様子を遠くから見ている「クーロン・ベイ」市民は、まるで鳥が頭をもたげたように見えるだろう。
その実は「ポッド・ゴッド」の「ボムズドラゴン」の仕掛けと同じだ。
内部で次から次へと下からハシゴを継ぎ足して、結果高い塔が出現する仕掛けである。
「ボムズドラゴン」では全て人力であったが、この船に搭載されている以上、それらは動力を使って行われる仕掛けだ。
そして、そうする必要があった。
「クーロン・ベイ」の市民の中には当然「ボムズドラゴン」の仕掛けを見た者はいる。だが、同じ仕掛けだと気付く者はいなかった。
状況が違う、環境が違う。そして何より演出が違う。
突き出した塔の先端部分に鳥の頭を模した飾りがあることも「クーロン・ベイ」市民の目を欺くのに一役買ったことは間違いないだろう。
だが、何より市民の目を欺いたのは――
突き出した鳥の頭の先端に人影が現れたのだ。
それも二人。
一人は蝶の羽根を背中に纏った女性。
そしてもう一人は、全身から発光する女性。
イブとミオであった。
~・~
「これは絶対、ミオさんのせいよね? 私を巻き込んだのよね?」
宵闇に浮かぶ「クーロン・ベイ」を見下ろしながら、イブがミオに文句をぶつけた。表情はギリギリ見えるかもしれないが、声は間違いなく「クーロン・ベイ」にまでは届かない。
それを理解しているからこそ、イブは開き直ったようにミオに絡むのである。
あるいは開き直らないとやってられない、という心境でもあるのだろう。
何しろ高い。
「私が精霊族だからですか? 私は母が――」
「違うわ。パシャさんを参事会に出向させたでしょ。それであの人怒ってるんだわ」
イブが言下にミオの言葉を否定した。
棒でも飲み込んだ様な表情になるミオだったが、それにも即座に反論する。
「元はパシャさんが勝手にやっていたことです! 私だって巻き込まれたようなものですよ。まさかこんなことをしていたとは」
「ゆ、揺らさないで!」
イブが手すりを強くにぎしめて、どうにかこうにか体勢と自分のプライドを立て直した。
この場所でへたり込んでしまうと、これから先の計画に支障が出る。
「絶対揺れますよ、こんなの。ダスティなんかを好きにさせておくからこんなことになるんです」
「ちゃんと謝らせたでしょ? ……わ、わかったわ。とにかくこの場は休戦としましょう。は、早く降りたいのよ」
言い争いの不毛さを肌で感じた二人は改めて協力することの大事さを悟った。
まるで作戦に捧げられた人身御供のような身の上を嘆いてばかりいるのは、建設的ではないと。
着飾った二人は開き直って、眼下の「クーロン・ベイ」に向かってにこやかに手を振った。