理由ある暴走
一心不乱のデュークは、今何に一心不乱になっているのか?
まずはデボン、さらにはパシャのやらかしから説明せねばなるまい。
振り返ってみれば、荷車を「改良」されたときからデボンにはその萌芽は見られたのだ。つまりは「スピード狂」の萌芽が。
速さを追い求めるデボンが、荷車の改良を手がけたパシャに援助を求めたのは自然な流れだったと言えるだろう。
そしてパシャも喜んで協力した。二人の間に友情が芽生えたこともまた自然流れであった。
速度を上げるに従って荷車の改良では済まず、一から速度を追い求めるための車体の制作に着手した。
そうなればパシャの「こんなこともあろうかと」が炸裂しないはずもなく、軽くて丈夫なフレームを提供したのである。
実はこのフレームが「ダイモスⅡ」再改造の際に有効活用されたのだが、それは別の話だ。
さらに速度が上がるにつれ身体、それに目を守る必要も出てくる事になり、そこで風防――板ガラスの開発に着手することになったわけである。
その段階で荷車の――すでに仕事用の荷車とは別個の個体になっていたのだが――改良については行き着くところまで行ってしまった。
だがデボンは諦めなかった。そして、
「この荷車は普通に宙に浮いている。それならば水上も走れるのではないか?」
ということに気付いてしまったのだ。
その思いつきは正解でもあり、間違いでもあった。
浮くことは浮く。しかし水の上では挙動が不安定になるのだ。水面と言ってもそれは海であり、波の揺らめきに過剰に反応してしまうらしい。
さらに風の影響をもろに受ける。
パシャはこの時はむしろその失敗を楽しむかのようであったわけだが、この時の二人の試行錯誤を見ていたのがデュークである。
海辺の一軒家で鬱々とした日々を送っていたデュークが「浮かぶ荷車」に興味を持ったわけだ。
何度もひっくり返りながらも、楽しそうな二人に合流したデュークは、だんだんと精神を快復させていった。
その内に「タイミングを読むことが大切なんだ」などと、もっともなことを言い出す。
ただ、そのアドバイスによってデボンは気付いてしまった。
この近海では「凪」という時間帯があることを。
転覆の危険があるために自然と引き上げていた夕刻。
季節の影響もあるが、確かに波も風の収まる時間帯「凪」がある。
それを肌で感じることが出来るようになったデボンは、ついに達成してしまった。
「ポッド・ゴッド」⇔「クーロン・ベイ」間、わずか一時間という狂気を。
そしてその狂気が長らく鬱状態だった一心不乱のデュークの精神を完全に癒やした。いやそれどころか精神活動を上昇させたのである。
「やったぞ! 記録更新じゃないか!?」
「そう思うなら降りてくれ!」
「コース取りにまだ無駄があるような……」
三バカ絶好調であった。