過ぎたるは及ばざるが如し
果たして、その感想はマクミランの偽らざる本音だったのだろう。
だが、キュッと飲み込んだ後はそれ以上の言葉が出てこない。
「あ、あの……美味しいんですよね? それに綺麗だし――」
「それが問題になりそうなんです。あまりにも旨すぎる」
マクミランの声に焦燥が滲む。
その言葉に納得いかないミオは戸惑いの表情を浮かべた。
「それはどういう……?」
「まず、これほど旨い酒を造ってしまうと醸造ギルドから文句を言われます。確実にシェアを奪う事になりますから。これは『ダイモスⅡ』にとってはよろしくない」
そう言われて反射的に反論しかけたミオだったが、少し想像するだけで、かなりマズいことになることが想像できた。
「ポッド・ゴッド」の発展に伴って醸造ギルドの規模も大きくなっている。
そういった状況下でギルドと争いを始めては「ダイモスⅡ」はもちろん「ポッド・ゴッド」がおかしくなってしまう。従業員の中には醸造ギルドに所属している者と親しい者も多いだろう。
争い始めたら、その関係性はお互いを苛む鎖になる。
さらにマクミランは歓迎できない未来図を描いて見せた。
「それがなんとか落ち着いたとしても、次にはこの新酒と従来の酒との戦いになります。お客さんの選択によって。断言しますが、この新酒は圧倒的に望まれるでしょう。そうなると今までの酒しか提供出来ない店は――」
寂れる。つまりは閉店から廃業という流れになってしまうだろう。
ミオはそれを容易に想像できた。図らずもフルーツを独占してしまったときのメイの訴えを聞いているからだ。
そしてミオは、この時独占をやめた。
そうすることが正しいと思ったからだ。深い考えがあったわけではない。
だから今も、答えは決まっていた。
「それは……いやだな。そういう事にならないように出来る?」
「あ、それは助かります。その方が手間がかからないので」
ミオの思い詰めたような声に気を遣った――わけでは無くて、パシャは本気でそんな風に考えているらしい。
「どういうことですか?」
すかさずマクミランが尋ねると、パシャはあっけらかんと答える。
「大量に作る事になるんですから、そういった設備を作るのも大変で、熟成のためには専門家に任せた方が良いですし。新酒は熟成に結構時間がかかるんですよ」
「そ、それはわかるけど大量って言うのは? それだけ売れるってこと?」
ミオが当然とも言える疑問を口にしたが、パシャはその声に三白眼をキョトンとさせた。
「あれ? 『クーロン・ベイ』から穀物を大量に買い付けるんですよね? それが最初の目的だったはず……」
「あ」
思わずミオは声を上げた。