人を狂わせる
その材料名を聞いたマクミランは訝しげに、眉根を寄せた。
それでは今までの酒と変わらないからだ。
パシャがフルーツバーに力を入れすぎて、従来の「ダイモスⅡ」とのバランスがおかしくなった。その埋め合わせのために新しい酒を造ろうと考えた。
……とまで、一瞬考えたマクミランだったがとりあえず飲んでみることにする。
話はそれからだ。
パシャが持つコップを受け取るマクミラン。当たり前に冷えている。
正直、エールについては冷やさない方が好みのマクミランであったが――
「!」
その顔色が変わる。
あまりの変化に、その様子を見ていたミオの目が見開かれた。全身から激しく発光している。
だがマクミランはミオのその変化に気付かず、一気にコップを呷ってしまった。
表情は元に戻っているが、
「――すいません、もう一杯いけますか?」
ダメになっているのかもしれない。
「はい。それぐらいなら――」
「それからこの木のコップでは無く、ジュースを入れているグラスに注いでください」
だが、何か考えるところがあったようだ。
酒に飲まれている様な状態では無いらしい。
そして、パシャが注文通り酒をグラスに注いで持ってくると、
「綺麗……」
思わずミオが呟いた。
透明なグラスだからこそ映える、黄金色に澄んだ液体。
そして純白の泡。冷えていることを表すグラスの表面に流れる水滴。
確かに、そこには「美」があった。
いつまでも眺め続けることが出来る。そう錯覚出来そうな魅惑的な輝き。
だがそれを――
マクミランが一気に飲み干してしまう。
完成された「美」を壊すような、昏い快感を満たすかのように。
「どうです? かなり上手く出来たと思うんですけど」
パシャが、やはり呆然とした様子のマクミランに確認した。
するとマクミランは厳かに口を開く。口の端に泡をつけたままで。
「……パシャさん、これはどうやって?」
「発酵させるときの温度の違いです。今までは特に冷やしたりはしないんですけど、仕込みの段階から冷やしました」
また「冷やす」だ。
それは確かに「ダイモスⅡ」の得意分野。だが――
「それだけのことで?」
ミオが驚くのも無理はない。
パシャは頷きつつ、こう説明した。
「俺もよくわかってないんですが、発酵する場所が違うみたいです。今までは上の方で発酵してたんですけど、このやり方だと下の方で発酵するんですね。それでこんなに綺麗になるんじゃないかと」
「よくわかってないんだ……」
とミオは疲れたように呟くが、それはいつもの事という気もする。
それに肝心なのは味だ。正直、ミオはそこまで酒の味がわかるわけではない。
つまり最初からマクミランが求められていたのは味の評価。
それはどうなのか? と、そういった疑問を視線に込めるミオとパシャ。
マクミランは頷いてこう呟いた。
「――旨い。どうにかなるほど」