表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こんなこともあろうかと!  作者: 司弐紘
56/107

人を狂わせる

 その材料名を聞いたマクミランは訝しげに、眉根を寄せた。

 それでは今までの(エール)と変わらないからだ。


 パシャがフルーツバーに力を入れすぎて、従来の「ダイモスⅡ」とのバランスがおかしくなった。その埋め合わせのために新しい酒を造ろうと考えた。


 ……とまで、一瞬考えたマクミランだったがとりあえず飲んでみることにする。

 話はそれからだ。


 パシャが持つコップを受け取るマクミラン。当たり前に冷えている。

 正直、エールについては冷やさない方が好みのマクミランであったが――


「!」


 その顔色が変わる。

 あまりの変化に、その様子を見ていたミオの目が見開かれた。全身から激しく発光している。


 だがマクミランはミオのその変化に気付かず、一気にコップを呷ってしまった。

 表情は元に戻っているが、


「――すいません、もう一杯いけますか?」


 ダメになっているのかもしれない。


「はい。それぐらいなら――」

「それからこの木のコップでは無く、ジュースを入れているグラスに注いでください」


 だが、何か考えるところがあったようだ。

 酒に飲まれている様な状態では無いらしい。


 そして、パシャが注文通り酒をグラスに注いで持ってくると、


「綺麗……」


 思わずミオが呟いた。


 透明なグラスだからこそ映える、黄金色に澄んだ液体。

 そして純白の泡。冷えていることを表すグラスの表面に流れる水滴。


 確かに、そこには「美」があった。

 いつまでも眺め続けることが出来る。そう錯覚出来そうな魅惑的な輝き。


 だがそれを――


 マクミランが一気に飲み干してしまう。

 完成された「美」を壊すような、昏い快感を満たすかのように。


「どうです? かなり上手く出来たと思うんですけど」


 パシャが、やはり呆然とした様子のマクミランに確認した。

 するとマクミランは厳かに口を開く。口の端に泡をつけたままで。


「……パシャさん、これはどうやって?」

「発酵させるときの温度の違いです。今までは特に冷やしたりはしないんですけど、仕込みの段階から冷やしました」


 また「冷やす」だ。

 それは確かに「ダイモスⅡ」の得意分野。だが――


「それだけのことで?」


 ミオが驚くのも無理はない。

 パシャは頷きつつ、こう説明した。


「俺もよくわかってないんですが、発酵する場所が違うみたいです。今までは上の方で発酵してたんですけど、このやり方だと下の方で発酵するんですね。それでこんなに綺麗になるんじゃないかと」

「よくわかってないんだ……」


 とミオは疲れたように呟くが、それはいつもの事という気もする。

 それに肝心なのは味だ。正直、ミオはそこまで酒の味がわかるわけではない。


 つまり最初からマクミランが求められていたのは味の評価。

 それはどうなのか? と、そういった疑問を視線に込めるミオとパシャ。


 マクミランは頷いてこう呟いた。


「――旨い。どうにかなるほど」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ