「クーロン・ベイ」の病
参事会が使っている建物の二階。
田舎町だから、と舐められてはいけないと「クーロン・ベイ」から職人を呼んで建てたものの、圧倒的に使えていない建物である。
そんな、うら寂しい建物に呼び出されたのはミオ。そして「ラスシャンク・グループ」総帥イブである。呼び出したのは参事官マリー。
イブは比較的時間に余裕があった――そういう風にスケジュールを作っている――わけだが、ミオはあからさまに迷惑がった。
だがマリーから現在の「ポッド・ゴッド」の危機を説明されて、その不満をすぐに引っ込めた。
イブはある程度予想していたのか、表面上は動揺してないようにも見える。
しかし、マリーの説明が続き「クーロン・ベイ」の内情と、その派閥争いについて説明されると、さすがに表情が曇った。
「……『クーロン・ベイ』がそんな事になっているとは……」
そこまでは確実に予想していなかったのだろう。
イブの動揺を表すように背中の羽根が小刻みに震えている。
「クーロン・ベイ」においても変革の時が訪れていたのだ。あるいは、その構造的欠陥から目をそらすことが出来なくなったと言うべきか。
「クーロン・ベイ」は非常に豊かで広大な穀倉地帯を抱えている。だからこそ「クーロン・ベイ」は大都市として栄える事が出来た。
しかしそれも頭打ちである。人口増加が止まったのだ。
だが、農耕技術は上昇し肥料などにも改良が加えられてきた。穀物の収穫量は増加の一途を辿り、現在では余剰状態。そうなると当たり前に値崩れだ。
農家は懸命に働けば働くほど貧乏になっていくというスパイラルに陥っている。
それに対して、農家が自由に価格を決め、と言うか市場原理に則った形で穀物の価格を決め、それによって最終的には「クーロン・ベイ」全体が栄えるようにしよう、と考える一派が現れた。
この派閥に所属しているのがコンゲ、と言うわけだ。
実はコンゲは革新派であったのである。
そこまで説明されて、ミオは首を捻った。
「それで良いじゃないですか。誰も反対しないでしょ?」
素直に考えるなら、当然そういう結論になるわけだが、そもそもそれなら何故今は穀物が安くなっているのか?
「それが『クーロン・ベイ』が抱える問題みたいでね。穀物を配給量を自分たちで決めて、それで上に立ちたい、と言うか穀物というものは街の指導者が管理すべきもの、と決めつけてかかっている一派があるわけなのよ」
マリーがやっと説明が終わった、と言わんばかりに肩と垂れ下がった耳を両方とも下げる。
「――それで、安く買いたたかれる穀物に新たな価値を見出せということになるわけですか。しかしそれは……」
静かにマリーの説明を聞き続けたイブ。
何事か異論があるようだが……