向き合うべき感情
「だからといって、無理です、なんて事も出来なくてね。お客さんが求めてるし、それが出来ないままだと自然に客足は遠のく。そうするとあたしが集めた仲間達も……」
「そうね。生活背負ってるし」
わがままを言えないメイの事情を察することが出来るミオ。
ミオはそんな自分に驚いたが、それ以上に驚いたのはメイの変化だ。
であるなら、メイへの対応はどうしたものか……と考えても簡単には答えが出てこないと感じたミオは、とりあえず外堀を埋めることにした。
「……そんなに素っ気ないの? ユージさんとか」
「ああ、やっぱり、っていうか当然知ってるよね、あの人。あの人はあんたというか、パシャっておじさんに恩義を感じてるみたいでさ。……この際だから聞いてみるけど、あのおじさんは何者なんだい?」
そう言われて、改めてミオは考え込む。
長い付き合いになったが、未だに素性不明だ。何しろパシャ自身が自分の素性を覚えていない……らしい。
それに「何者?」なんて言われるようなパシャのおかしな動きは、それこそミオと出会った時からなのだ。つまり最初からおかしい。
そうやって黙り込んだミオを見て、メイは苦笑を浮かべる。
「なんだい。あんたもよくわかってないのか……でも、あのおじさんのおかげであんたは助かるし、あたし達はまともになるきっかけを貰った」
突然、メイが立ち上がった。
そのままミオに深々と頭を下げる。
「――すまなかった。謝って済むことじゃないけどね。あたしの自己満足のために謝らせてくれ」
ミオはそんなメイを見て……やはり動かされる感情は無い。
当然という気持ちと、今更、という感情がぶつかり合って、結局イーブンに落ち着いてしまう、とした方が正確だろう。
だが、反応を見せないミオに焦ったのかメイはさらに言葉を重ねた。
「あたしもイブさんに店を任せて貰ってさ。その時は単純に喜んだんだけど、続けていくと思い出すのは店長に叱られた事ばかりだ」
店長とは、ミオの父親スタディのことだ。
「それで自分がどれほど甘ちゃんなのか、やっとわかった。叱られた事を恨みに思って、取り返しのつかないことを――」
「う~ん、実はね。さっきまで忘れたのよ。あなたたちの事」
ミオが突然声を出した。
「で、向き合ってみるとやっぱりモヤモヤはするんだけど、思っていたよりも全然たいしたことないのよ。だからって、あなたたちを許すつもりは無いんだけど――」
頭を下げたままのメイがゴクリと唾を飲み込んだ。
「――それはそれとして、あなたの所にフルーツ卸さないのもおかしな話だって思うのよ。それで、そっちのお客さんが残念な気持ちになるのは可哀想だって」
「それは……あたしもそう思う。け、けどさ……一応ライバルになるわけじゃ無いか?」
メイが改めて、デリケートな部分を確認する。
だがそれに対しては、ミオはにんまりと笑った。そして宣戦布告するようにメイにこう言い放つ。
「そんなの『ダイモスⅡ』に勝てるわけ無いでしょ!」