招かれざる客
フルーツバー「ダイモスⅡ」。昼の間はこういう形で営業することになった。
今も「ポッド・ゴッド」の女性陣、さらには観光客がみっしりと詰めかけている。
いや、むしろ観光客の方が多い。「ポッド・ゴッド」近郊で採れる各種フルーツを冷やして味わえるのである。これは大都市「クーロン・ベイ」でも不可能な営業形態だったからだ。
そしてフルーツバー「ダイモスⅡ」の存在は、一種の起爆剤だったのだ。観光客を引きつけ、あらゆる需要を爆発させたのだから。
こうなると休む間もなくなる。意識的にスケジュールに休みを組み込まないと、本当に倒れるまで働き続けることになるだろう。
そういう意味では、まさにミオの判断はギリギリであったのだ。
そんなわけでミオは本日は休み。「そろそろ店全体を冷やしましょうか?」などとパシャが言い出す季節であるので、起きたは良いが若干寝苦しかったのか「ダイモスⅡ」の二階にある自分の部屋でボーッとしていた。
そこに……
「あのぅ……店長?」
控えめなノックと声が聞こえてくる。
声の主はハイヴという名の少女、というかすでに妙齢の婦人と言っても良い年だ。
彼女の「成長」に関しては背の高さだけではなく、最初は屋台、今はフルーツバーの営業を任せることが出来るほどに頼もしくなっている。
兎人種族で、可愛らしい容姿ながら今ではミオの信頼も厚い娘なのだが、その声は何かに怯えているようだ。
「何? 何かあった?」
急速に覚醒したミオが扉を開けてハイヴに尋ねると、やはりハイヴは怯えているようにも見える。こういう時にはパシャが対応してくれるはずだが、今はいないらしい。
この時間帯であれば乱暴な客とも考えにくいが、そういった場合でも赤いゴーレムが対応できるはず。どうやらかなり不測の事態が起こってしまったようだ。
ミオが心を落ち着けながら、ハイヴの言葉を待っていると、
「あの……お客さんです。店にでは無くて、店長のお知り合いだと」
と、来客の報せだけ。しかし、それだけの事でハイヴがこれほど怯えているわけがない。
「私に? 誰だろ?」
ミオは下に降りる用意をしながら、半ば独り言のように確認する。
するとハイヴは、
「メイさん、ってお名前みたいです。女の方で……」
と、答えてきた。
その名を聞いても、ピンとこなかったミオは「メイ……メイねぇ……」とその名を繰り返す。その内に、頭の中に赤い羽色の鳥人種族の像が出来上がった。
「あ、あのメイか!」
と、ようやくのことで思い出した。
かつて「ダイモスⅡ」から「秘伝のタレ」を持ち出した三人組の一人の名を。