渡る世間に鬼はないⅡ
どんなに頭を捻ろうとも、働き続ける事は不可能と言うことがわかったミオ。
働き続けるという方向性で可能性を模索する姿勢がまずおかしいのだが。
そこで改めてミオの望みを言語化してみる。そうすることで譲れない部分を細分化した方が良い、とはマクミランの忠告だった。
さすがに短期間で屋台事業を発展させたマクミランである。
ミオはそれを受け止めて、色々考えた結果――
「つまり私は、鶏を焼きたい、というよりもお客さんと話したいのよね。だからフルーツバーも確かに楽しみなんだけど……私が言い出したことでもあるし……それはつまり……」
ミオは腕を組んでムムムと考え込む。そして最終的には、
「やってみなくちゃ、わかんないわ」
と、投げ出したような結論に辿り着いた。
ただ、一日おきにやってみよう、と思えるぐらいになっていたのは進歩と言えるだろう。
ミオはその辺りの自分の思惑をあけすけに常連客達に話した。
毎日は店に出られなくなるけれど、それでも構わないか? と。
そう言われて、常連客達は泣き泣きながらそれを認めた。
というか認めざるを得なかったと言っても良い。常連客と言っても毎日「ダイモスⅡ」に顔を出すわけでは無い。
それに最近は屋台に顔を出すことも多い。
この状態ではミオが新しいことに挑戦しようとしているのに、それに異を唱えることも出来なかったのである。何しろ全員が親代わり、ぐらいの心持ちだったからだ。
こういった常連客達の反応を受けて本格的に「ダイモスⅡ」の改造が始まった。
まず取りかかったのは、窓ガラスの設置だ。
今までの窓ガラスは金属で枠を作り、そこに溶けたガラスを嵌めると言ったような代物だったのだ。つまり採光能力はそこまででは無い。
そこに板ガラスである。さらにパシャの魔改造込み。
これによって店内が驚くほど明るくなった。
外からも店内の様子が窺えるので、女性客も安心。その上、カウンターのガラスハウスに飾られている、きらびやかなフルーツ達。
さらには夜の常連客達が「ミオが新しいことを始めた。今度は女も楽しめるような店らしい」と自動的に家族に宣伝する。
酒場に通っている、わずかながらの後ろめたさが、熱心にフルーツバーを勧める形になったのは宜なるかな。
そうやって一度でもこの店を訪れた女性達が、この店を贔屓にしてしまう。
何しろ店長のミオは同性だ。さらにはマクミランの進言によって、スタッフも女性を採用。
とことんまで女性が来店するのに敷居を低くしたのである。
そして気付けば――「ポッド・ゴッド」に新たな人気スポットが誕生していた。
屋台との連動も巧みであり、ますます「ダイモスⅡ」を中心としたグループは繁栄したのである。