働き方改革
「ですが、それは設備だけの話です。この方式で従来通り営業するとなると、どう考えても無理が出てきます」
マクミランはミオから視線を逸らす。
「ミオさんは、どうなさるんです? 昼にフルーツを売って、夕方からずっと働く。今だって休みがないんです。――倒れますよ」
まさに「お前が言うな」状態ではあったが、マクミランも、それにパシャも良い意味で手の抜き方を心得ているのだろう。
だがミオは短期間でチキンの焼き方をある程度までマスターしてしまったことからわかるとおり、自分を後回しにしてしまう性格だ。
さらに今は子供達の育成まである。
この上、新しくフルーツバーまで始めてしまえば、行き着く先に最悪の事態が待っていても不思議では無い。
ミオもそれを感じること出来たのだろう。唾を飲み込んだ。
「そ、それは……いやよね。やっぱり。実は切って売るだけなじゃなくて、砕いてジュースみたいにもしようかな、とも思ってたの。何しろ、そういうの得意じゃない? 元は酒場なんだし。それにお酒と混ぜても……」
「あ、良いですね。それも冷やせるわけですし、グラスについてもガラスで作れば――」
「パシャさん」
反省するべきタイミングで、新たなアイデアを披露するミオ。
それに刺激されて、さらにアイデアを重ねるパシャ。
「ダイモスⅡ」の会計を、これ以上無いほどどんぶり勘定にした二人の悪いところが出てきた形だ。
それに待ったをかけたのがマクミランであるので、今回も自然とその役割を受け持ったらしい。
「それでは困るんですよ。本店がしっかりしてくれないと屋台に冷やす機能をお願いできないしょ? そこを“なぁなぁ”にしないで下さい」
いや違う。
マクミランも新しい可能性に囚われていた。
「え~? 出来ないとは言いませんが……」
「働いた後に冷たい飲み物がすぐに飲めるとなれば、それがどれほどの癒やしになるか。少し想像すればわかるでしょう?」
三人が三人ともダメであった。
働き方についての改革は出来そうも無い。
「……う~ん、これは私が後回しにしちゃダメよね。でも私、チキン焼くのも辞めたくないのよ。でも、フルーツは……」
何とかミオが店長らしくイニシアティブを取ろうと頑張るが、ミオ自身が答えを見出せないままだ。
ただ、はっきりしていることは一つだけあった。
「とにかく、何をするにしても休憩とか、休む、とか仕事以外のことをする、とか、そういう時間を確保しましょう。パシャさんはデボンさんとそういう時間を持たれているようですが……それが仕事になっているわけですが……」
マクミランがかろうじて建設的な意見を口にした。
そして三人はそれぞれに、この話し合いに疲れてしまっていたのだ。
今日の当番の子供達が顔を出したことをきっかけに、解散となった。
具体的な方針が決まらぬまま。