言訳無用
しかも今までは、パシャとマクミランが言葉を交わすたびに話がドンドン進んでゆく。
ミオは今度もそうなるだろうと覚悟を決めたのだが……
「いや……それは、ちょっと難しいかと。時間を貰えれば、あるいは……」
パシャがマクミランの要求に待ったをかけた。
「ミオさんにはおわかりいただけると思うんですが、前に荷車にこういった改良を施したときは速度優先だったわけです。ですが今回は速度いりませんから、その分を炉に回したわけです」
「はぁ」
口数が増加するパシャ。これではまるで言い訳だ。
しかし言い訳になっているのか。いやその前に言い訳が必要な状況なのか。
それでもマクミランは自分の要求を撤回する。
「――わかりました。ゴーレムについてはいったん保留にしましょう」
考えてみれば荷車の多機能性とゴーレムに何の関係があるのか。
ミオが改めて首を捻る。
「私も急ぎすぎましたね。きちんと順番に出来ることから始めましょう」
「そ、そうよね」
迷っている間にマクミランから明確な方針を打ち出されたことで、ミオはその流れに乗っかることにした。半ば反射的に。
「ええ、ですからまず確認したいのは、どれほど資金があるかと言うことです。どれほど余裕が?」
「ええっとね、たくさん」
当然とも言えるマクミランの確認に、ミオが「言わなければ良かった」レベルの答えを返す。
それでもマクミランは耐えた。
「あ、あの……パシャさん?」
「俺は十分な給金いただいてます」
「いえ、そうでは無く――」
マクミランがさすがに苦言を呈しようとするが、それと同時にミオが声を上げる。身の程知らずに。
「そうだった! この荷車、タダで譲って貰ったんじゃないんでしょ? またパシャさんがお金を出したのね!」
「ええ……俺の趣味の範疇でしたから」
「『ダイモスⅡ』が出すって言ってるじゃない」
「経費」の概念については確かにミオに備わってはいるようだ。
しかしそれも、全体的な収支を把握していない状況でどれほど意味があるのか。
尚も二人は地獄の底を覗くような眼差しのマクミランを置き去りにして。言い合いを続けているが、それもまた虚しい。
「――わかりました」
ビクゥッ! とミオとパシャが飛び上がる。
何しろマクミランの表情が無くなっているのだから。
「本当に最初から順番に手をつけなければならないようですね。帳簿を見せてください」
「あ、あの、ちょっと前まではちゃんとつけていたのよ。でも凄い勢いでお金が貯まるものだから、もういいかな、って。税の分だけ取っておけば問題ないわけでしょ?」
言い訳のようで言い訳になっていない言葉を紡ぎ出すミオ。
「そ、そうですよ。とりあえず今すぐに困ることはないわけですし」
そして、パシャが完全に間違う。
「帳簿」
だからこそ、こうなってしまったのだ。
マクミランから遠慮と丁寧さを奪ってしまう結果に。