やり過ぎを止める者なし
腰を上げてしまえば、裏口はすぐそこだ。
パシャが何を準備しているのか? という具合に好奇心も刺激されている。
かくして、かつてパシャが倒れていた裏口に向かってみると――
「こ、これは……」
表情の変化が乏しいはずのマクミランが動揺を隠せないでいた。
ミオはその横で、今にも頭を抱えそうな雰囲気。
裏口から通じる狭い路地は、パシャが倒れていた時と変わらない。
その路地自体に変化は見られないのだが、とんでもない異物が出現していたのである。
つまり荷車だ。
当然、宙に浮かんでいる。
「これですと移動に手間がかかりませんし、何より楽です。その他にも――」
「パシャさん、いつの間に……」
「デボンが手伝ってくれまして、東区画で使わなくなった荷車を融通してくれたんです」
そう言われれば、ミオも納得するしかない。
パシャとデボンは本当に友達になったようで、時々つるんで荷車に改良――あるいは改造を施している事はミオも知っている。
だが、今回ミオが気になったのは「手段」ではなくて「時間」だ。
マクミランが訪ねてきたのは昨日だ。そこから用意したと考えると、どうしてもこんな荷車が用意できるはずが――
そこまで考えたミオは頭の中で首を捻る。
デボンの荷車に手を加えたときの簡単さを考えると、不可能では無い……?
「そ、それで他の機能というのは? 一つはこの浮いているという部分だとは思いますが」
ミオがどう言おうかと言葉を探してる間に、マクミランがパシャに尋ねてしまった。
恐らくはマクミラン自身も色々な疑問点を振り切って、実務的な部分の確認を優先させたのだろう。
だが、この判断がますます混乱を招く。
「そうでした。一つは確かに浮かぶ機能なんですけど、もう一つは熱……というかチキンを焼くことが出来る炉ですね。そういう機能をつけてあるんです」
「「な」」
ミオとマクミランの声が揃った。
機能自体の狙いはわかる。確かに必要であるとも、便利だとも思うが――
「やはり問題になるのは炉の使いになりますからね。これならまず失火の恐れはないですし。ただ、炭を使った方が風味が出る気がしますし、それはそれで本店との差別化が図れる――」
「いやいやいやいや」
止まらぬパシャの説明を、ようやくのことでミオが遮った。
どう考えても便利すぎる。さすがにどういう仕組みかをしっかりと確認しなければ、安心できない。
そんな思いがミオにあるのだろう。
「ちょっと待ってください、パシャさん」
そんなミオに追従するかのようにマクミランも声を上げた。やはり便利すぎるとマクミランも感じたらしい。ミオがマクミランに場所を譲るようにすると――
「――この屋台にゴーレムを専属でつけれるんじゃないですか?」
ミオの目が見開かれる。さらに全身の光が強くなった
この裏切り者~! と、いうことなのだろう。