ミュンには向かない仕事
そんなイブの戸惑いの理由を、マクミランは察していた。
有り体に言ってイブは参事会の強気な姿勢が腑に落ちないのだ。
「……私も参事会の素っ気なさは気になるところです。ですが、その理由はまだわかりません」
「そう……そうよね」
参事会にしても全てを詳らかにする必要は無いし、「ラスシャンク・グループ」としても強硬に要求する必要は無いだろう。
そもそも各店の「味の秘密」というなら、それは尊重すべきものなのだ。
同じ外食産業に携わるものとして、やはり無理は出来ない。
「ただ――」
マクミランがさらに声を潜める。
「――『ダイモスⅡ』の周囲で気になる動きを見せる人物がいました。デボン・アイランド。運送業のようです」
「運送業……ですか?」
そこでマクミランがデボンの生業について、イブに説明する。
それを聞き終えたイブは小さく頷いた。
「なるほど……普段は食料品は扱っていない、と。それなら確かに」
「ええ。仕入れに形跡が残らないのも納得です」
そう納得出来るのだ。
で、あればここで「ダイモスⅡ」の調査を打ち切っても良かったのだが――
「私自身、どうかと思うんですが……」
恐る恐るイブが声を上げた。
「そうですね。タレの秘密についてはそこまで気にしなくても良いと思います。イブ様は最初から、タレについての調査にはそれほど乗り気では無かった。ですが今度は」
「ええ。参事会の変化が気になってしまって。――それはやっぱりパシャと言う人物に集約されるという勘があるんですけど」
今度はマクミランが頷いた。
「では、調査を進めましょう。ミュンに頼んでも良いですか?」
「ミュンに……ですか?」
「デボンも男性ですから。私がやると……どうも上手くいきません」
自嘲気味にマクミランが笑う。
それがわずかに見せたマクミランの表情の変化だった。
~・~
そんなこんなが、現在ミュンがイブの指示でデボンに接触することになった経緯である。
だがミュンは性格的に密かにデボンに接触したりすることは出来ない。
それがわかっているから、イブ達は最初から「普通に話を聞いてきて欲しい」とミュンに頼んだのである。
事情も全部話してしまっても構わない、と。
そう言われたミュンだが「事情の全部」と言われても、判断に迷うところだ。
「ダイモスⅡ」絡みの事情に、秘伝のタレについても知らないわけでは無いのだが、それをデボンに話して何がどうなるというのか?
そもそも何を聞き出せば良いのか……参事会の対応の変化に、デボンはあまり関係が無いようでもある。
イブやマクミランの真意が見えぬまま、ミュンは東区画へと向かった。