ようやく再現
興奮するデボンをなだめすかして、デボンの家の中に連れ込む二人。
荷車は着地させて、当たり前だが外に停めたままだ。
「と、とにかく落ち着いてよ!」
「でも、あの荷車は本当に凄い!」
興奮冷めやらぬデボン。先ほどまで泣いていたことを思い出すと、その変化に思わず引いてしまうミオだった。
一方で集まってきた住人達もパシャの三白眼を見て引いてしまったようだ。いつの間にか三々五々と散会している。
「あの……では『クーロン・ベイ』に向かってくれますよね」
そんなパシャが扉を閉めながら、デボンに確認する。
その三白眼を真正面から見てしまったデボンが生唾を飲み込んだ。
悲しみから抜け出せた結果、パシャの異相に改めて気付いたのだろう。
「あ……あ、そうか。そうでしたね。は、はい。『塩辛』でしたね」
「行ってくれるんですか?」
今度はミオが声を上げた。
その様子を見ながら、今度はしっかりとデボンも頷いた。
「もちろんです。荷車があんな風に改良……たぶん改良なんでしょう――してくれたんですから」
そこまでは意気揚々と答えたデボンだったが、その勢いが無くなって行く。
「あ、あの……行かないと改良は無しなんですよね?」
よほど、改良された荷車を気に入ったらしい。
その問いかけにパシャは笑顔を見せる。
「出来ればそういうことはしたくないですね。でもそれとは別に、俺達のことは秘密でお願いしたいんですよ」
「どういうことですか?」
ここで改めて「ダイモスⅡ」側の事情を説明。さらには秘伝のタレの再現に向けての試行錯誤も。
「……なるほど。よくわかりました。そういうことなら是非協力させてください」
「はい。個人的には荷車をもっと色々改良したいんです。こちらと協力してくれれば、これから機会もあるでしょうし」
「本当ですか!?」
どうやらパシャとデボンの間に友情というものが形成されつつあるようだ。
「それなら荷車を使い続けるのは無しですよ。ちゃんと休んでください。そうしないと壊れます」
「はい、ちゃんと守ります」
「でも……デボンさんの腕なら今までよりずっと早く進めると思いますよ。昼夜を無視して乗り続けるよりもっと速く」
そのパシャの言葉は本当だった。
翌日にはデボンが「塩辛」を入れた小さな陶器製の容器を持って「ダイモスⅡ」に現れたのだから。
そして、改めて客のふりをするまでも無くポッドチキンの焼き物に舌鼓を打ち、ミオに「塩辛」を渡したのである。
~・~
かくしてミオは今までの試作品と塩辛をあわせて、ついに秘伝のタレに辿り着いた。
あとは参事官マリーの査察を待ち受けるだけである。