もはや魔改造
浮かぶ荷車を目撃してしまったデボンは、フラフラと荷車に近寄り全体を撫でさすった。それに連れて荷車はわずかに揺れるがそのままひっくり返ったりはしない。
「パシャさん、この荷車に車輪っているかな?」
「元に戻せるように、とのことですので」
傍らで眺めていたミオが確実にズレたことを口にする。パシャの影響だろう。そのパシャは律儀に返答しているが。
デボンはミオの質問でハッとなって、車輪をさすり始める。そして本当に車輪が地面に接していないことを確認して脂汗を流し始めた。
そのままデボンは呻き声を上げる。
「こ、これは一体……なにをどうしたら……」
「あ、それはですね。デボンさんがいつも座っている座席があるでしょ。それで手綱を――」
やはりパシャもズレていた。別にデボンは乗り方を尋ねたかったわけではない。
それを指摘するかどうかデボンが迷っている内に、パシャは厩舎から手綱を持ってこさせ、荷車自体に手綱を取り付けてしまった。
そしてデボンを座席へと押し上げて、手綱を持たせる。
そうすると一応それっぽい形にはなった。
荷車にハミを噛ませる、という言い方はおかしいのだが、そんな風に見えなくも無い。
「あとは普段通りで良いですよ。ただちょっとスピードが出ると思いますので注意してください」
「え~っと……? ああっと、こ、こうかな……?」
パシャの勢いに飲まれるままに、デボンが手綱をしごいた。
途端――
「あ、あ、う、動いた」
「ええ。そういう風に出来ていますので。くれぐれもスピードの――」
とパシャが言う矢先に、浮かぶ荷車がスーッと前進して行く。そして家々の向こうに消えてしまった。
「――出し過ぎに気をつけて~、と言いたかったんですが」
「大丈夫なの?」
「とりあえず、どこかにぶつかったりはしてないみたいです」
確かに衝突音は聞こえてこない。その代わりに歓声らしき声が上がっているようだが。
「その内に戻ってくるでしょう。これでデボンさんが『クーロン・ベイ』に向かう気になってくれれば良いんですけど」
「あ、そうだったわ。それが私達の目的だもんね」
ミオもそれなりには興奮していたようだ。そのまま再びパシャに車輪の必要性を確認する。かなり気になるようだ。するとパシャが、
「車輪は本当にいらないんですよ。宙に浮いていますし、車輪があると道のでこぼこで荷物安定しませんし」
と、身も蓋もないことを言い出した。
「でしょ? でも確かに停めるときの台は必要かもね」
ミオがそう応じていると、歓声を上げる近所の人たちを引き連れて、デボンが荷車を横にスライドさせながら帰ってきた。
そのまま停止。異常なほど乗りこなしている。
そして、
「凄い! これは本当に凄い!」
と、デボン自身が歓声を上げた。