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こんなこともあろうかと!  作者: 司弐紘
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荷車の改良

 パシャに促されて、ミオとデボンが家の外に出た。太陽は丁度中天。ずいぶん明るいが、パシャはそのまま遠出しようということでは無いようだ。

 何しろ目指す先は、厩舎の横に置かれている荷車だったのだから。


「こちらがデボンさんの荷車ですよね?」

「はい、そうです。ブルケーが引いてくれて僕もその荷車に乗って……」


 再び感極まりそうになるデボン。パシャが慌てて「まあまあ」と慰めて、なんとか話を進める。


「この荷車に手を加えたいのですが、よろしいでしょうか?」

「は? いえ、どんなに手を入れても新しいヤグルを向かえる気は……」


 やはり根本的な問題は、デボンがブルケーにこだわり続けている部分になるだろう。


「ですから、新たなヤグルがいなくとも荷車が動けば問題ないわけで」


 ところがパシャはそういった問題を飛び越えてしまうような提案をする。

 途端にデボンの涙が引っ込んだ。あまりのことに理解が追いつかないのだろう。


「い、一体……?」


 デボンはかろうじてそれだけ口にする事が出来たが、当たり前にわけがわからない。

 かと言って説明されても、やっぱりわけがわからないだろう。


「パシャさん。つまりこの荷車をゴーレムみたいにするってこと?」


 ある程度はパシャに慣れたのだろう。ミオがそんな風に確認するとパシャは得たり、とばかりに頷いた。


「そうですそうです。要は動力が付いていればいいわけですから」

「よくわからないけど、わかったわ。それって手を入れた後、元に戻せる?」

「はぁ。要は動力を取り外せば済むので」


 ずいぶん簡単な話になってしまったが、この方がデボンを説得しやすいことは確かだ。なにより、


「デボンさんが気に入らないなら、元に戻せるらしいから」


 と、こんな風に提案出来ることが大きい。


「そ、それなら……はい。壊れそう止めることも出来ますし……出来るんですよね?」


 果たしてデボンは、その提案を受け入れた。表情に怯えが見えるので「もう二人には好きやらせた方が早い」という判断もあるのだろう。


「では――」


 パシャが即座に荷車の下に飛び込んだ。

 仰向けになって荷車の床、その裏側に何かを取り付けるらしい。


「え、えっと……それぐらいなんですか?」

「ええ。そういう風に調整してきましたから」


 そんなパシャの様子を見て大袈裟なことにならないらしい、とデボンはホッと胸をなで下ろした。

 これなら確かに簡単に元に戻せるだろう、と。


 しかし――


「はい。これで完了です。どうですか? これで動かせますから」


 デボンの安堵はとんでもない形で裏切られた。

 何しろ荷車が宙に浮いているのだから。

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