不幸は塩辛い
とにかくデボンに泣き止んでもらわなくては、事態がいっこうに先に進まない。それだけは確実だったのでミオとパシャが二人がかりでデボンを慰めてゆく。
そのままデボンの話を親身になって聞くことになったのは自然な流れではあったが、結果的に二人はデボンの概ねの事情を知ることも出来た。
元々はミオの父親のスタディと、デボンの父親のチャールズが友人であったらしい。そういった交流の中で「塩辛」については個人的にチャールズがスタディに譲っていたようだ。
確かにそういう事情なら、仕入れの流れに「塩辛」が現れないこともあるだろう。
だがそうすると――
「……あの、塩辛というのはどういった食べ物なんですか?」
「ああ、それはですね。食べ物というか酒のアテです。魚を発酵させたもので、一気に口に入れる物では無いです。ちょっとずつ摘まむむ感じで」
その説明で、とにかく「塩辛」は味の濃い食べ物らしいことが窺える。となればタレのアクセントとしてごく少量使うようにしていたと考えれば色々納得出来るわけだ。
それにデボンもチャールズが亡くなったあと、スタディのために「塩辛」を融通していたらしい。
となれば、ミオも「塩辛」を頼めば良い。もちろん仕事としてだ。
それに慎重に考えれば「塩辛」がタレに使われているのかはまだ確実では無いのである。
とにかくまずは「塩辛」を手に入れる事。
それに「クーロン・ベイ」の「塩辛」と言っても、作っている業者は複数あるだろうから、事情を知るデボンに是非とも引き受けて貰いたいところなのだが――
「でも、ブルケーまで死んでしまって……」
再びヨヨヨと泣き出すデボン。
ブルケーというのはアイランド親子二代で世話をして、荷車を引かせていたヤグルの名前だった。ヤグルとは荷車を引かせる大きな牛のような動物で、デボンの仕事の大事なパートナーでもある。
それが一月前ほど死んでしまった。恐らくは老衰で。つまりそれほど長くデボンと生活を共にしていたというわけで、デボンが泣き伏せてしまったのも無理もないところだろう。
それに今から別のヤグルを選んだとしても「クーロン・ベイ」まですぐに向かえるかというと、それもまた簡単な話では無い。
それに何よりデボン自身が運送業を続けるのかどうかも、判断できていないようなのだ。
かといって、ミオとしては長く待っていられないし、そもそもデボンが仕事を再開するのかどうかもはっきりしないのである。
「実は俺、|こんなこともあろうかと《・・・・・・・・・・・》用意していた事があるんですが……」
そんな状況でパシャが、いつもの台詞を口にした。
あるいは当然のように。