デボンの涙
イヤな予感だけが積み上がるが、常連客達の話が全部無駄であったわけでは無い。とりあえず「アイランド」という人物の生業は判明したのである。
そこからさらに手すきの時間にどこに行けば会えるか? と尋ねてみると「街の東側」という非常にざっくりとした情報も入手できた。
そこで翌日、ミオとパシャは連れ立って街の東側に向かい「アイランド」という人物を探すことにしたわけである。
そして単純に尋ね歩いただけだったが、今までの苦労が嘘に思えるほど簡単に「アイランド」の家が見つかった。
家の横には厩舎らしき建物があって、その側には荷車も横付けされていた。確かに運搬業に携わっているらしい。
そうやって尋ねてきた二人を迎えたのは鳥人種族の青年だった。
「あ、はい。僕がアイランドです。デボン・アイランド。スタディさんは残念なことでしたね……」
そう言うデボンの方がよほど残念そうな雰囲気と口調だ。
ツバメに似ている面差しだがわかりやすく落ち込んでいる。
「あ、あの……何かありましたか?」
たまらず、ミオがそう尋ねるとデボンはやるせなく首を横に振り、
「いえ……こちらのことですので……今日は何かありましたか? あ、どうぞ」
とやはり元気なく、デボンは二人を家に招き入れた。
パシャの三白眼にも反応しない。間違いなく重症だ。
そんなデボンの雰囲気に圧倒されていた二人だが、ここで引き返すわけには行かないし、何より話が一つも進んでいない。
二人は勧められるままにテーブルに腰を下ろした。
家の中は家具がほとんど無く、部屋の片隅に木箱やずだ袋がひとかたまりになって佇んでいる。運送業者と聞いていたせいか何となく納得出来る室内の雰囲気。
しかし、まずはそこから確認すべきだろうとミオは考えたらしく、陶器板について尋ね、そのまま職業についても確認する。
「ああ……確かに取り扱っていましたね、陶器板。それをお尋ねなんですか?」
過去形で話している事には引っかかるが、確かにデボンは「クーロン・ベイ」へ出向くこともあるのだろう。
ミオは覚悟を決めて、肝心な部分を確認する。
「あ、あの……塩辛という商品にについては……?」
「あ、はい。塩辛ですね」
あっさりとデボンが答えてくる。
ミオは思わず立ち上がって、
「知ってるんですか!?」
と詰め寄るがデボンはそれに釣られること無く、元気なくそれに応じる。
「ええ……元は親父が自分用に買っていた物で『クーロン・ベイ』の特産品なんですよ。スタディさんもお好きみたいで何回かお譲りしたことがありますね」
これは確実に当たりを引いたらしい。そう思ってミオが興奮していると、パシャが右手を挙げながらデボンに尋ねる。
「それでその……お父上は?」
と。
それを聞いたデボンの目に涙が浮かんだ。
「ええ、三年ほど前に……そして……そして……ブルケーも……!」
ついにデボンが泣き出してしまった。