謎の言葉
翌朝である。酒場である「ダイモスⅡ」において、ゆっくり出来る時間とは即ち朝も明け切ってからということになり、つまりは話し合うのもこの時間帯だ。
別にこっそり話し合う必要は無いのだが、麗らかな陽の光のせいか、必要以上に健康的が溢れているような雰囲気。
しかしミオの表情はどんよりと曇り空だ。
「困った。これは困ったわよ。全然予想してなかったわけでもないし、準備もしてきたつもりだけど……」
秘伝のタレ再現の見込みは立っていないからだ。
昨晩の営業時間はなんとか笑顔で乗り切った。せっかく身につこうとしていた焼き加減については頻繁にミスしてしまっていた。
精霊族特有のミオの発光も明滅状態だ。営業中を空元気で乗り切っていた反動が現れたらしい。
「けれど、果物に付いては見込みが当たっていたわけなんですよね?」
「いや、あれもね。私は仕入れ任されていたから、それで他のメニューと比べてみれば、果物だけは使い道がわからなかったから……」
消去法的に、タレの中身がわかったと言うことだ。
そのやり方で果物に各種スパイスまでは判明したのだが、そういった材料の配分や調理時間を工夫しても、どうしても届かない。
地下室のタレと比べると、おかしな話だが雑さが足りなくなるのだ。
上品すぎると言うべきか。言葉を選ぶなら「野性味が足りない」と言うことになるのだろう。
「やっぱり、何か材料が足りないんでしょうね」
地下室のタレと、ミオが再現しようと試みたタレとを比べてみると、どうしてもそういう結論になってしまう。
パシャが三白眼をギョロギョロさせながら、結論づけた。
「そうなのよ。どうやってもそういう答えが出てくるの。でも、全然心当たりが無くて、父さんは何をしてたっけって考えて……何でか父さんが集めてた陶器板並べてみたり……」
「陶器板?」
パシャが聞き慣れぬ言葉に反応する。
「ああ、陶器の板に色んな風景の絵が描いてあるの。趣味だったのかなぁ。でも全然眺めてる――」
「それですよミオさん!」
パシャが喜びの声を上げた。
「俺も『こんなこともあろうかと』ずっと書き置きか何か無いかとずっと探してたんですよ。でも見つからない。残るはその陶器板だけ。絶対に何か残っています」
「え……でも私も――いいわ。とにかく持ってくるから」
ミオが私室から陶器板の入った木箱を持ってきた。陶器板は片手に収まるほどの小さなもので、さほどにはかさばらない。
そして、改めて裏側を調べてみると……
“アイランドめ! 塩辛だけよこせば良いものを!”
と、愚痴のような殴り書きが発見できた。
ミオは「見逃していたのかなぁ?」と首を捻るが、それ以上に首を捻る言葉があった。
つまり――
「塩辛?」
これである。