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こんなこともあろうかと!  作者: 司弐紘
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とりあえず回避

「え? 秘密って」

「ええ。参事会には伝えて貰って良いんですけど、他の店にタレの秘密がバレてしまうと、この店としても困ったことになってしまうわけでして」


 目付きは尋常では無かったが、言っていることはもっともだし「ダイモスⅡ」の従業人としては真っ当な言い分だ。


「……わかりました。実際、我々としても安全面さえちゃんとして貰えれば問題ないわけですし」


 マリーが深く頷いた。

 さらにパシャが言葉を重ねる。


「もしかしてタレが腐りやすいとか、そんな事を言われたんですか?」

「それはその……そんな事は無い、とは言えませんね」


 それを「ラスシャンク・グループ」から伝えられた、とはマリーも明言できない。そんな事が知られたら、参事会が「ラスシャンク・グループ」の小間使いの様な印象を与えてしまうからだ。


「その点、こうやってタレを冷やしておけば十分保存出来るわけです」

「父さんが、こうやって保存していたとは私も気付かなくて……それに最近のドタバタで、参事会に面倒をかけてしまって」

「なるほど。そういう経緯だと納得出来ました。スタディさんは突然でしたからね……」


 半ば唐突に、三人はこの査察を終わらせる流れに乗っかった。

 査察を主導するべきマリーにしても、「ラスシャンク・グループ」との関係を知られたくない思いがある。


 さらにミオの身の上を考えると、これ以上文句をつける必要は無いとマリーが判断するのも無理はないだろう。

 だからここから先は、純粋に親切心の発露だった。


「保存方法はわかりましたが、いつかは無くなりますよね。補充のための仕入れの準備は出来ていますか? 先に連絡してくれれば便宜を図りますよ」

「あ、それは……ありがとうございます。その果物がいくつか……」


 途端にミオの様子がおかしくなる。

 それはそうだろう。何しろ秘伝のタレの再現はまだ出来ていないのだ。


 確かに梨や葡萄などが使われていることは明らかだったのだが、それらの材料だけではどうしても秘伝のタレにならない。

 だが今までの仕入れを調べてみても、それらしい食材が見当たらないのである。


「必要になったら改めて報告させていただきますよ。そろそろ仕込みにかからないと開店時間に遅れてしまう」


 そんなミオを助けるように、パシャが口を挟んだ。

 それに実際、開店時間が迫ってきている。マリーもしつこく詰め寄ったりはしなかった。


 そこにパシャがとどめを刺す。


「こちらが落ち着いたら、必要な食材についてと改めてタレを冷やす方法もお伝えしますよ。これはきっと参事会にとってもいい話になると思うんです」


 その不思議もあったか、と今更ながらマリーは自分の見落としに気付いた。

 しかしそれを誤魔化すのでは無く、パシャが自ら申告したのである。


 「ダイモスⅡ」に隠す意図は無い、とマリーは改めてそう判断して引き上げることになった。

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