秘密厳守
「え? あ、あの、お話は店長から……」
「なかなか専門的な話になってしまいますから」
三白眼に恐れを成したのか、マリーはなんとかパシャを避けようとしていた。
「パシャさん、言っちゃうの?」
「参事会の方ですから。ちゃんと説明した方が良いかな、と」
ところがマリーがパシャを避けるための名目にしようとしていた店長自身が、パシャを巻き込もうとしていた。
「……アレは説明出来るのかなぁ」
しかも、とても気になる言葉を添えて。
「わかりました――え? 厨房の奥なんですか……一体何を……?」
「見て貰った方が早いと思うので」
覚悟を決めたはずのマリーが、パシャの案内に戸惑いを見せる。だが一度了承してしまった以上、どうにもならないだろう。
マリーはパシャの後ろに従った。
そうすると、そこまで広くはない「ダイモスⅡ」である。マリーは横にスライドする入り口と地下室。そしてそこに蓄えられている秘伝のタレを、あっさり確認することになった。
それらを見た時のマリーの反応とは「絶句」そのものであったことは言うまでもないだろう。
そこにパシャが追い打ちをかける。
「査察ということですから、この店を潰したいわけではないですよね? お客さんに悪いものを提供していないか確認するために来られた――そうですよね?」
「え、ええ」
厳密に言えば違う気もするが、そういう名目が査察の理由に含まれていることは確かだ。マリーとしても頷くしかない。
パシャはその頷きに乗っかった。
「仕入れした様子がなかったのは、仕入れの必要が無かったからです。何せこれだけの量がありますから。ミオさんのお父様は用意周到な人だったようですね」
「用意……そうなんですね」
確かにそれなら理屈は通るわけだ。
だが、マリーはこのタレがすぐにダメになるという情報も提供して貰っている。
こんなに大量にあって、簡単には使い切れないとなると――
「あ、これスプーンと小皿です。確認しますか?」
絶妙なタイミングで、ミオがマリーの背後から現れた。
こうなるとマリーもタレの鮮度を確認するしかない。美味しそうな香りから察するに、どう考えても腐ってはいないはずなのだが。
ミオがタレをすくい小皿に乗せてマリーに差し出す。マリーは儀式的にタレの匂いを嗅いでから、舌先でその鮮度を確認した。
確かに腐ってはいない。これなら文句はどこからも出ないだろう。そこまでは予想通りなのだが――
「冷たい……んですね? これはどういう……?」
「ですから、こういった事情も含めて秘密厳守でお願いしたいんですよ」
再びパシャの三白眼がマリーを睨め付けた。