帳簿は嘘をつかない
マリーをテーブル席に案内すると、ミオはその正面に座った。
それを合図にマリーが鞄から幾枚もの書類を取り出す。
「えっと……これがこの店の仕入れ量だと思われる数値です」
「え? わざわざ調べたんですか? 言ってくれれば帳簿見せますよ」
あっけらかんとミオは答えるが、査察である限り周辺からの調査も必須だろう。
だがもちろん、ミオが帳簿を見せるのならそれに越したことはない。
「では、拝見できますか?」とマリーがミオに申し入れると、すでにパシャが帳簿を用意していた。
マリーはパシャの三白眼に内心怯えながら帳簿を受け取ると、表面上はすました顔で帳簿を開いた。
「……なるほど。こちらが問題にしている期間の仕入れ量は、こちらの調査と変わらないようですね」
「じゃあ!」
ミオが喜色を浮かべる。
自分がつける帳簿の数値と、どうやって調べたのかはわからないが外部調査の数値が一致したのだ。
普通に考えれば「問題なし」という判断になるだろう。
「ええ。確かに問題があるようですね」
ところがマリーは反対の結論を導き出した。
「なんで!? どうしてそうなるの!?」
思わず立ち上がって、ミオがマリーの判断に非難の声を上げた。
しかしマリーは慌てず騒がず、ミオに向かってこう告げる。
「私共の調査ではこの『ダイモスⅡ』はたいそう繁盛しています」
「そ、それは……はい。ありがとうございます」
途端にミオの気勢が削がれてゆく。
この辺りの言葉運びは、マリーによる入念なシミュレーションの成果だろう。
「ですから当然、仕入れ量も増えていますね。ポッドチキンは当然としてエール、それに付け合わせの野菜。燻製肉やチーズについても」
「はい……そうですね」
そう言われればミオとしては、同意するしかない。
提出した帳簿の数字もマリーの指摘を証明しているのだ。ミオはどうしようもなくなって、再び腰を下ろすことになってしまった。
「で、あるならですよ」
「はい」
そこにすかさずマリーが詰め寄った。殊勝にミオが返事をする。
「この店の特徴的な焼き物のタレ。アレに関する仕入れも必要になるのではないのですか? 繁盛しているのですから当然使用量が増えているはずです」
その指摘でミオは固まってしまった。
マリーの指摘はもっともなことであり、秘伝のタレに関しては現状ではもっともな状態ではないことを、ミオは自覚しているからだ。
そしてマリーは、そんなミオの様子を見て「どうやら本当に不正があるようだ」と暗澹たる気分になった。
面倒なことになった、と。
だが、その時――
「あの~、それに関しては俺の方から説明させてください」
パシャが割り込んだ。
三白眼をますます上目遣いにして。