こんなこともあろうかと
倒す。
他に選択肢は無いように思えた。
巨大になったズォーメルの全身からほとばしる純粋な殺意。
もはや言葉でどうにかなる状況ではないし、相手でもない。
だから、ズォーメルに対して「倒さなければならない」という判断は全く正しい。
だが、その決意には「どうやって?」という問題がついて回るのだ。
武器は――ある。
剣や弓矢が。しかしそれが通用するとは思えない。
反対にズォーメルが振りかざす爪だけでも、簡単に命は千切れ飛ぶだろう。
いや、爪を振るうまでもない。その巨大な体躯で押し潰すだけで……
ゴクリ、と誰かが生唾を飲み込んだ。
このままでは、ズォーメルが口にした「死の大地」が出現してしまう。
それもいとも簡単に。
それは即ち、死が――
「――大丈夫です。《《こんなこともあろうかと》》、俺の手足は爆弾で出来ています。爆弾というか、次元振動弾ですね。懐かしい言葉を使うなら」
いつの間にかパシャがズォーメルに近付いていた。
そのまま、ズォーメルの足に抱きつく。
「ようやく思い出しました。俺の手足がこうだから、ゴーレムも作れるし、■法が無くなった世界でもどうにかする知識があることを気付くきっかけにもなった」
「な、何をしている、貴様!」
先ほどまで殺気を撒き散らしていたズォーメルが、足に組み付いたパシャを振り払おうと無茶苦茶に身体を動かし始めた。
「無駄無駄。ズォーメル、あんた自分で召喚しておいて、俺のことも忘れてしまったのか? どうやら因果律をねじ曲げる力は逆転して、あんた自身に働いたようだ」
「な、何ぃ!?」
ズォーメルの顔が驚愕で歪んでいた。さらに無茶苦茶暴れ回り、ブルーエルフ族、そしてデューク達から離れてゆく。
パシャは何度も振り飛ばされそうになるが、その度に「最初からその位置にいた」かのように位置を変える。
なんの脈絡もなく。
「あんたがその姿になることで、色々な制約がなくなったみたいだ。そろそろ俺の名前も思い出してきたんじゃないか? あんたがこの世界の因果律に巻き込まれないよう異世界から呼び出した俺の名前は……」
「ま、マサキ……か……」
ズォーメルが停止した。
いつの間にかパシャを背負う形で。
「皆さん! 俺もコイツが何を計画したのかまではわかりません! その狙いもはっきりとはいない!」
そのパシャが突然叫ぶ。
「ですが終わらせることは出来ます! ありがとう! 面白かった!!」
その言葉に返せるような言葉を全員が持っていなかった。
だから黒い光を撒き散らすような一撃は、空間に黒い坑を穿つようなその爆発は……
全員の後悔を吸い込むようにして、チュン、という甲高い音と共に消えた。
――そして世界からズォーメルと三白眼は失われたのである。