元凶
「じゃ、じゃあ、パシャは……」
デュークが確認する。それは贖罪に似ていた。
「パシャはずっと私達を諫めていた。だがある時『本当に悪い相手がわかった』と言って……」
ジョーニアスの説明は、マクミランの記憶と合致した。
パシャはブルーエルフ族の側にいた。その理由はブルーエルフ族を諫めるためだったのだ。
そこまではわかった。
問題はそこから先だ。
「パシャさん、思い出せますか? あなたが見つけた『悪い相手』とは?」
マクミランが頭を抱えるパシャに呼びかける。
パシャはしばらく前から、うずくまり呻き声を上げていた。
「お、おい……」
さすがにアイザックがマクミランを止めようとするが、デュークがそこに割り込んだ。
「いや……最悪かもしれない。その『悪い相手』っていうのが――」
その時である。
ジョーニアスの、ブルーエルフ族が作り出す影。
その中から、緑色の肌の男がせり出してきたのだ。
姿形は人間種族に似ている。初老ほどに見えるが果たして見た目がアテになるのかどうか。
ただひたすらに巨大。この中では一番身体が大きいウェストでさえ、及ばない。
黒い服を着て、存在自体が禍々しい男。
そして、デュークが風防越しに確認した影。
「――油断したわ。これほどの人間に認識されてしまうとはな」
その声は不機嫌の極みであったが、どこか愉快げでもある。
「ズォーメルよ……お前が……お前だったのか……」
ジョーニアスが苦しげに呟く。
「お前達、ブルーエルフ族は認識を消し去った■力に優れているのでな。随分役に立ってくれた。だがこうなっては仕方がない。お前達を触媒にして、一帯を死の大地に変えてやろう」
ズォーメルは何事かを失敗したのだろう。
それはきっと「北の帝国」と「北の集団」を利用した企み。
恐らくは人の負の感情を増幅させ、それにつけ込む力で。
そして今は自棄になって効果が限定的な企みを選びばざるを得なくなり、それでも尚その破滅の予感に喜びを感じている。
――生きとし生けるものの感情では無い。
そうと理解した瞬間、あまりのおぞましさに周囲の人間が戦慄する。
一歩後退る。
「我等が協力するとでも? 断固として、我等は貴様などに協力しない!」
だが、ジョーニアスだけは毅然とズォーメルに逆らった。
ズォーメルは、そんな宣言など無視するかに思えたが……
「……ならば、もう貴様達など使うには及ばない。そのままここで死んでゆけ。この場には人間共も大量にいることだしな!」
ズォーメルは叫びと共に人間をやめた。
人間の姿形をすることをやめた。
頭からはねじ曲がった角が生え、大きかった体躯はますます膨張してゆく。
背中からは蝙蝠の羽根。
その姿を見た誰かが呟いた。
「■神……」
と。