北に何があったのか?
ズォーメル。
ジョーニアスの主張ではそう名乗る存在があったらしい。それはデュークが風防越しに見た巨大な人影があったことが傍証になるだろう。
「北の集団」が滅んだ後、ブルーエルフ族は肩を寄せ合って北の峻険な山地に身を潜めていた。そこに現れたのがズォーメルであったらしい。
最初は、そんな胡散臭い人物を相手にしなかったのだが……
「かつての栄光……アレが栄光であったのかは今ではわからんが、昔を懐かしむ気持ちがあったことは間違いない。そこにつけ込まれた」
「それは怨みのようなものか?」
ジョーニアスに対してシュンが厳しく詰問する。
それはシュンもまた「北の帝国」――ひいてはジョーニアスに怨みがあるかのように思えたが、事態はもっと深刻だった。
シュンは続けてこう言ったからだ。
「怨みだとすると……ユウキ卿が引き込まれたのもわかる。あるいは怨みを持つものを束ねたのが『北の集団』の正体であったのかも」
確かにそれで説明は出来る。
「北の集団」が発生した絡繰りについては。
だが、誰がそんな事を為し得たのか。これがさっぱりわからない。
集団を狂騒状態に追い込んだその絡繰りさえも――
「おお! パシャ! パシャでは無いか! 良かった……お主に会うことが出来るとは……」
突然、ジョーニアスが声を上げた。
その視線の先には、当然三白眼がある。そしてブルーエルフ族は揃ってパシャに頭を下げていたのだ。
ブルーエルフ族に、それだけの礼を捧げられたパシャは戸惑っていた。
「お、俺をご存じなんですか?」
狼狽えながら、かろうじてそれだけを口にすることが出来たパシャ。
ブルーエルフ族のみならず、ここまで共にやってきたデューク達からも、厳しい視線が送られてきているのである。
パシャはそれでも、懸命に頭を振るだけ。
「――実はパシャさんは記憶があやふやになっているんです。ジョーニアス殿。帝国が出来るまで、何があったのか教えてくれませんか?」
ただ一人、マクミランだけが冷静だった。
最も当事者であるからこそ、どこか突き放したような感覚を維持できたのだろう。
この事態の肝心な部分を指摘した。
それに対して、今度はジョーニアスが狼狽える。
「き、記憶をか……それは……重ねてパシャにはお詫びの仕様も無い……」
がっくりと肩を落とすジョーニアス。ブルーエルフ族も悄然とした面持ちだ。
そんなブルーエルフ族の様子に、今度はデューク達が慌てる。
一体、北では何があったのか?
改めて、それが疑問点として浮かび上がってきたのだから仕方がない。
そしてそれを説明出来るのは――
「……わかった。私が知っている限りは伝えよう」
ジョーニアスが重々しく告げた。