中年三白眼
今、ミオの足下にはおじさんが倒れていた。
ケンカに巻き込まれたのか、ボロボロだ。雨の中でなんとか身体を起こそうとしている。
三白眼でギョロ目。
人間種族ではあるようだが、色んな種族が混ざっているのかもしれない。
「あ~えっと……大丈夫?」
そう声をかけるミオは人間種族と変わらない姿形。だが、わずかに全身が発光しているので、精霊族なのだろう。
金の髪は長く、整った容姿であることも彼女が精霊族であることを示していた。
ただ、まだ少女と言っても良い年齢であるようだ。
「……だ、大丈夫」
と言いながら、おじさんはなんとか立ち上がろうとするが、膝がいうこと聞かないらしい。その場で崩れ落ちた。
ミオが慌てて、おじさんに肩を貸す。
おじさんが倒れていた場所は酒場「ダイモスⅡ」の裏手だ。ごみごみした場所で、人目に付かない。
それだけに、おじさんがケンカに巻き込まれて倒れていることも納得出来るし、「ダイモスⅡ」が自分の家でもあるミオが様子を窺って軒先から顔を覗かせたのも当然と言えるだろう。
しかし、ミオが雨の中に飛び出しておじさんを助け起こしたことは、当然とは言えないだろう。
おじさんはそれに驚いたのか、さらに目を大きく見開く。
「あ……ぬ、濡れますよ」
「もう濡れてるから手遅れだよ」
精霊族が放つ仄かな光が、しとしとと降り注ぐ雨の中で、さらに儚さを増したようだ。
「それを気にするなら、早く中に入って」
その儚さを裏切るように、ミオがおじさんに力強く声をかける。
「ああ、そ、そうですね……」
今度こそ膝に力が入ったのだろう。
おじさんはしっかりと立ち上がった。
「お、俺は……俺はパシャと言います」
そしておじさんは名乗る。
今、自分の名前を思い出したかのように。