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捨て駒にされた奴隷ですが、敵国の王女様に助けられました〜今更戻ってこいと言われても絶対に戻りません。さようなら〜  作者: 終夜翔也
第1章 終わりと出会い編

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第38話 仇

 繰り出される計十九連の《真炎玉(プロミネンス・ボール)》。

 その全てが一人の人間を殺すには過剰な威力を持った一撃。

 これほどの数の殺意の火の玉に晒された哀れな男の末路は死の一択――のはずだった。


 「え?」


 突然の変化にシンは呆気に取られた。

 自分の目の前に突如として()()()()()()が現れたからだ。


 「うっ――――!」


 呆けていたのはほんの一瞬。すぐに状況を理解するとマルミアドワーズを構え、《真炎玉(プロミネンス・ボール)》を打ち払おうとするが、着弾した一撃が爆発し、吹き飛ばされてしまう。


 「ぐあっ!」


 その余波のまま建物を突き破りながら激突する。

 しかし、そのおかげで《真炎玉(プロミネンス・ボール)》の射程外に逃れることが出来たのは不幸中の幸いと言えよう。


 「オレ様の『聖痕(スティグマ)』を忘れたのかお兄様ァ」


 カストルの隣から纏わりつくような不快感を抱かせる声がかけられる。

 瞬時に顔を向けるとそこにはシンがいた場所から蹴りを繰り出そうとするレオナールがいた。


 「ぐふぅっ!?」


 頬にめり込む靴の感触を感じた瞬間、痺れるような痛みが走り蹴り飛ばされる。

 だが、シンに受けた一撃と比べると痛痒のようなものだ。

 すぐに体勢を立て直すと反撃に転ずる。


 「《太陽の咆哮(ソーラー・レイ)》!」


 放たれる怪光線。殺傷力は《真炎玉(プロミネンス・ボール)》よりも高い。

 それをレオナールは化け物じみた反射神経で躱すと同時に片手半剣(バスタードソード)とは逆の手に持つ得物をカストルへ向けた。一見すると銃火器のように見えるが、武器と言うよりは工具のような印象を受けるデザインをしている。

 そして、引き金が引かれ銃口の部分から飛び出したのは釘だった。

 つまりこれは釘打機(ネイル・ガン)。歴とした工具だ。


 しかし、発射された釘の速度は通常の釘打機(ネイル・ガン)のものよりずっと速く、飛距離も長い。

 恐らく殺傷力を上げるための改造が施されているのだろう。


 「邪魔だっ!」


 放たれ続ける釘の弾丸を真炎で焼きながら一直線の最短距離でレオナールに向かって走るカストル。

 憎しみの染まったその目はもうレオナール以外を映していなかった。


 「へェ、この四年で腕上げたなァ」


 「黙れっ!」


 「カストルさん!」


 そこへシンも駆け付ける。

 割と派手に吹き飛ばされていたはずだが、大したダメージを受けた様子がない。

 レオナールはシンへの警戒度を数段上げるとカストルへ視線を戻す。

 既にカストルは目と鼻の先にまで迫っており、今にも剣が振り下ろされようとしているが、レオナールは冷静さを失うわけでもなく、ただ不敵に笑った。


 転瞬、目の前からレオナールが消え、代わりにシンが現れた。


 「え?」


 「くっ――――!」


 カストルもそれに気付き、剣を止めようとするも間に合わない。

 振り下ろされた斬撃がシンを肩から斬り裂き、歪な平面を生み出す――、


 「はああああああああああああっ!」


 ことにはならず力任せにマルミアドワーズでガードした。

 常人ならば来るのが分かっていたとしても身体が追いつかない。

 シンの常人離れした膂力があってこその技だった。


 「へェ、あれ防ぐのかよ」


 口笛を吐きながら素直に驚いた様子を見せるレオナール。

 二人が声のした方角へ振り向くとそこは移動する直前までシンが走っていた位置と合致していた。


 「場所の入れ替え……それが貴方の『聖痕(スティグマ)ですか……」


 「ご名答」


 取り繕う様子もなくレオナールが笑う一方でシンは顔を顰めた。

 直接の戦闘力はなく、一見地味な能力に思えるがその認識が間違いであることはさっきまでの戦闘で明らかだ。

 攻撃した瞬間先程のように味方と場所を入れ替えられ、同士討ちさせられる可能性があるため思い切った攻撃が出来ない。

 何か弱点があるのかもしれないが測りかねるのが現状だ。ここは慎重に動いて――、


 「レオナールウウウウウウウッ!」


 怒りに塗れた声で敵の名を叫ぶカストル。

 その姿は天敵と相対した獣のようで今にも飛びかかりそうな雰囲気だった。


 「カストルさん、冷静になりましょう。考えなしに動いては奴の思う壺――」


 「黙れっ!」


 顔を向けることなく、シンの言葉を切り捨てるカストル。その間にも双眸はレオナールのみを見ていた。


 「そのガキと言う通りだぜェ。無闇に突っ込んでもオレ様に勝てるわけが――」


 「黙れえええっ!私は貴様を殺さねばならんのだ!ポルクスを殺した貴様をぉぉぉ……」


 その言葉にシンはハッとしてカストルを見る。


 「ハッ!殺したァ?でもお兄様は変わらず弟クンと一緒にいるじゃねえか。いや、所詮妄想じゃあ心の穴は埋められねえってことだな」


 ポルクスを二重人格の弊害だと嘲弄するレオナール。その言葉にカストルの堪忍袋の緒が切れるのがハッキリ聞こえた。


 「貴様あああああああああああああああああああああっ!!」


 シンが止める間も無く感情のまま飛び出そうとするカストル。だが、その直前で動きが止まった。


 「――すいません……兄さんがみっともないところを見せてしまいました」


 人が変わったように――いや、代わったポルクスが謝罪の言葉を口にする。


 「いえ……お気になさらず。それよりもポルクスさん、あの人は――」


 「ええ、僕を殺した男です」


 改めて告げられたその言葉にシンは重く押し黙った。

 つまりレオナールはカストルにとって絶対に許すことの出来ない仇ということだ。

 あのように冷静さを失うのも仕方ない。

 だからこそポルクスが出てきてくれたのは正直有り難かった。


 「へえ〜、これがお兄様ン中の弟クンかァ……流石血を分けた兄弟から生み出されたとあってソックリだなァ」


 「挑発には乗りませんよ……それより、何故【天星の使徒教団】幹部『十二使徒』の貴方がここにいるのですか?」


 「【天星の使徒教団】……?幹部?」


 【天星の使徒教団】。それは創造神ルシフェウスを悪魔と崇め、暗躍する秘密結社だ。

 大陸の裏社会を支配する大組織で奴隷売買や麻薬製造、売春、傭兵と言った裏稼業は勿論、商会の経営や医療などの一般社会の経済分野にも進出しており、その影響力は一国にも匹敵すると言われている。

 更に軍事力も侮れず、首領である教主直属の部下『十二使徒』を筆頭として一騎当千の強者が多数所属しており、保有戦力である戦闘部門も練度が高い。

 これだけの大組織であるにも関わらず詳しい構成人数、資金力、活動内容について分かっておらず、構成員同士の洗脳じみた結束力の強さ以外にも各国中枢と深い結びつきを持っているからだと言われており、実際過去には大臣の一人が『十二使徒』の一人だったという国もある。


 しかし、活動目的の一つとして不老不死の実現がまことしやかに囁かれており、それを証明するがごとく教団の医療技術は非常に高い。そのため、不老不死を求める者、自身や身内が不治の病苦しむ者たちの入会希望者が後を絶たず、これが教団の勢力を広げる大きな要因となっている。


 そして、そんな巨大組織の幹部を務めており、各国から恐れられるS級手配犯がこのレオナールというわけだ。


 「じゃあこの人……相当強いんじゃないですか」


 「うん、多分僕と君の2人がかりでも倒される可能性はあると思う」


 シンは固唾を飲んだ。

 向かい合っただけで分かる。今まで対峙した誰よりも強い。

 恐らくアストレアはおろか、アポロにだって匹敵する強者だろう。


 だが、退くわけにはいかない。

 シンは覚悟を決め、マルミアドワーズを強く握り締める。

 絶対生きてアストレアのもとに帰るんだ。


 「勝つよ!君と僕の二人で!」

 「はい!」


 「来いよ小童ども。ホントの戦いってヤツを教えてやらァ!」

最後まで読んで頂きありがとうございました!


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