地球外生命体、襲来。
「剣矢!何をモタモタしている。さっさとその仕事済ませて、営業行って来い!」
また、理不尽なこと言ってるよ。うちの上司は。この資料だって簡単だって言うけど、あんたはもうすぐ14年目だからそりゃ簡単だろうけど、こちとらまだどの資料がどの順番で、誰に提出すれば良いかも不確かな状況だってのに、そんなに効率良くできるかってんだ。
俺が、そううちの上司のことを罵っていたとき、
営業フロアにけたたましい爆音とともに、何かが降ってきた。そして、うちの会社の前の国道に墜落した。
バリンバリンバリン!
ギャー!
ガラスが、目に!足に!手に!
衝撃で浮き飛んだ窓ガラスによって、落ちてきたものを見ようと窓の近くに近寄っていた人達は、体中にガラスの破片が刺さり、死屍累々の状況となっていた。因みに、さっきまで俺のことを罵っていた上司は、喉と目に大きな破片が刺さり、倒れている。
(これ…死んだろ?いい気味だよ。)
とにかく、何が起きたかを確かめるために俺は、階段でまずは更衣室に向かった。他の従業員は貴重品だけ手にすると一目散に駐車場へと向かった。
俺は、更衣室に着くと自分のロッカーから刀袋に包まれている一本の刀を取り出した。これは、じいちゃんが死ぬときに俺にくれた一振りで、般若と呼ばれてきた。
まさに、先祖が2000人を道連れに死んだときに使っていたものだ。
そもそも、なんで会社に刀なんて置いてあるのかが、問題になってくると思うけど、これは何時も側に置いておかないと、心配になる。じいちゃんの形見だかんな。
俺は、貴重品とこの刀を持って、外に出た。
そこには、先に出ていた他の従業員達の死体が、無数に転がっていた。それぞれが鋭利な刃物で斬り刻まれていた。死屍累々な現実味のない光景に気持ち悪くなる気も起きない。そのとき、叫び声を上げながらこちらに逃げてくる人影が見えた。
(あの人は…)
こちらに逃げて来た人は、渡辺美鳥さん。総務部人事課の方で、入社以来様々な相談に乗ってくれていた、本当に優しい人だ。加えて、綺麗で未婚。正直彼女がいなかったら、ここまで続けてこれなかったかもしれない。そんな彼女を追っておるのは、人のようにも見えるが、顔を仮面のようなもので覆っている男?だった。
(このままだと、美鳥さんが殺される!)
そう思った俺は、刀を握る手に力が籠もった。
(ここで、あいつを殺したら、美鳥さんは助けられるけど、俺は人殺しになる。)
そう思うと、握った手の力が抜けた。確かに、美鳥さんは、俺を助けてきてくれたけど、他人のために人殺しになる必要が本当にあるのか?
(美鳥さんには、悪いけど囮になってもらおう。今のうちに逃げれば態勢を整える事ぐらいできるだろう。)
俺は、そそくさとその場を抜け出すと、更衣室へと戻った。俺は、シャワーを浴びると、スーツを脱ぎ捨て、普段着に着替え直した。
小袖、羽織、袴(下着は、洋風なものだ。)、靴も運動靴。
リュックサックを手に持った。
俺の家は、古風な家系で、家も昔ながらの木造の武家屋敷。かの長尾景虎(後の上杉謙信)の血筋を継ぐ家系なのだそうだ。その影響で、小さい頃から剣道を強制されてきた。俺は、2人の兄と、1人の姉と、2人の妹がいるが、結局大成させられたのは、俺だけだった。
その代わり、祖父は、俺に業物の刀や甲冑、歴史書等歴史的に貴重な物を遺産として残してくれた。金に昔からあんまり興味のなかった俺にとっては、最高の贈り物で、他の兄弟や親戚たちからすれば、ガラクタにしか思えなかったようだ。
俺は、般若を腰に帯びると俺はエントランスへと戻った。
さっきまでいた仮面の奴らは、いつの間にかいなくなっていた。不自然すぎるほど静まり返っている。
俺はとりあえず、折り重なっている死体から財布を失敬した。無論、現金だけ。どう考えても、ただの盗人だけど、
死人に口なし。
(死んでるやつに、金なんていらねぇだろ。)
全員分を集めると、100万近くになった。上席たちは、結構持っていたみたいだ。俺は、それを財布にしまうとリュックサックに入れて、車に投げ入れた。
なにかの気配を感じ、駐車場の隅を見てみると先程の連中がなにかの周りを囲んでいる。そいつらの隙間から見たところ…
(美鳥さん…。やっぱり、助からなかったか。)
俺は、もしものことを考えて、般若を抜いた。なるべく音を立てずに抜いたつもりだったが、彼女を囲んでいた奴らの一人がこちらを振り返った。
俺を敵と判断したのか、武器を構えてこちらへと向かってきた。俺は、露の構えにて迎え撃つこととした。