プロローグ
ピピピッ!
うるさく鳴り響く目覚まし時計を止めた俺は、まだ眠い目を擦りながらモゾモゾとベッドから抜け出し、部屋の窓に近づきカーテンを開け放った。
「また、面倒な一日が始まるのか…。」
「剣矢、早く起きて来て!会社に遅刻するよ!」
いつも通り、母親が一階の台所から大声で俺を呼ぶ。行きたくない。その一言すら、今の俺には言うことができない。両親からの期待、親のコネで入った企業での不信感、毎日の疲労とストレスからくる発熱。それでも、昔から親に逆らわず素直にしたがってきた俺は、今日もつまらないこの一日を過ごしていくことになるのだろう。
あぁ…、世界、ぶっ壊れてくれねぇかな…。
「剣矢!何度も同じ間違いしてんじゃねぇよ!俺のこと舐めてんのか!?」
この言葉ももう半年以上の聞き続けている。おれの先輩は、高校時代甲子園で活躍した名ピッチャーだったらしい。ただ、プロに進まず大学を選んだ彼は、そこで肩を壊し、野球辞めた。それでも、その栄光を傘にきて、いつも迫ってくる。
「なんで、半年もいて、こんなこともわからないんだ!?」
(なんで…?そりゃ、ここにいる俺以外の営業マンは、皆総務部であらゆる資料の作り方から、資料の種類、雑務のこなし方まで、効率的な熟し方を学んできた人らだ。
対して俺は、営業の基礎を学びながら、同じことも学んできた。俺は、自分で言うのもなんだが、人一倍覚えるのが苦手だ。
俺も高校時代には、剣道部の主将として、母校を全国制覇に導いた実績がある。ただ、ある事情でそれも辞めざるをえなくなったが。まぁ、とにかく俺は人の2倍繰り返さないと覚えられない。加えて、怒られれば怒られるほど、萎縮して非効率的な動きを取ってしまう。
それを毎日のように怒られていれば、動きがぎこちなくなってしまうのは、申し訳ないが仕方のないことだ。こればっかりは、すぐには直せない。)
「また、こんな時間になっちゃった。」
先輩たちからお前の今後のためだと、言われて押し付けられた雑務の数々。さらにそれは仕事のうちには、入らないと意味のわからない論説を繰り返し、さらに重い内容の仕事も与えてくる上司。おかげで入社半年、新規採用となってから、1か月の俺は、毎日、8時30出勤 20時30退社がいつものルーティン化している。
本当に高校時代は良かった。同じ様に遅くまで自主練していてもキツイとか、苦しいとか思ったことはなかった。一つ一つの練習の積み重ねが、次の大会で結果として現れることがわかっていた。だからこそ頑張れた。
だが、仕事はそんな簡単に結果は出ない。特に俺の会社はゼネコンと呼ばれる総合建設会社だ。他の企業以上に結果が出るまで、時間が掛かる。
(アニメや映画みたいに、宇宙人でも襲来して世界をぶっ壊してくれねぇかな。それで俺は、敵の将軍共を斬り殺して、その腕を見褒められ、将校に雇われるんだ。そしたら、この国のアイドルや女優は、俺のもの…。
なんてな。そんな非現実な事、起きるわけもねぇのにいつも考えちまう。俺の剣道の流派は、戦国時代に生まれ、世間に知られることなく続いてきた殺人術。戦場でたった一人で殿に残り、友人でもある大名を逃がすために自らの命をかけて、総勢2000名の敵兵士を道連れにした最強かつ最恐の剣士が用いたとされる抜刀術"飛天御剣流"。
アニメでも使われている名前だけど、文献にはそんな記述残っていなかった。でも、俺の実家には、先祖の逸話を記した古文書や人を斬ってきた名刀の数々が納められている。全て昨年なくなった祖父が手入れしていたものだから、抜刀できるし、使おうと思えば使えるけど、そんな勇気も俺にはない。
このときの俺は、考えてもいなかった。そんなことを考えていた次の日に人生を一変させる出来事が起きるなんて。)
これは、人生に飽きていた社会人一年目の青年が、地球外生命体との関わりで新たな人生に希望の光を見出し、自分のあり方を見つけていく物語である。