気付いちゃいました
最悪だ。
まだ将来のことなんて考えなくてもいいと思ったが、妹の名前を聞いて絶望してしまった。
妹の名はドルフィナス。
悪役令嬢ドルフィナス・ヘル・オルキヌス。
有名な乙女ゲーム、魔法学園の王女様の敵役であり、俺の妹の名前である。
魔法学園の王女様。
ゲームの内容はうろ覚えだ。レビューサイトをサーフィンしてネタバレを少し見た程度で、軽いあらすじとネタバレしか知らない。
ヒロインが恋愛をしながら、王族や有力貴族と仲を深め合うも、主人公を疎ましく思うライバルが邪魔をするというのが主なストーリーだ。
平民の主人公のサクセスストーリーを描いたものなのだが、どんな結末を迎えようとエンディングで絶対に破滅するキャラがいる。
それが俺ことアルコとその妹のドルフィナスだ。
アルコは甘やかされて育てられたせいか我満かつ怠け者な性格であり、権力を乱用して女を囲い、主人公にも手を出そうとしたクソ野郎だ。
陰では妹に豚みたいとバカにされているとは気づかず、いつかは妹もだこうとした変態シスコンでもある。
エンディングでは手籠めにしようとした妹に罵倒され、自分が妹に利用されていたこと、妹に陰ではバカにされキモがられていたことに気付く。
そして失意のまま破滅エンドを迎えて妹共々退場することになるのだ。
退場の仕方はエンディングによって様々なのだが、中には主人公の婚約者に斬り殺されたり、魔法で焼かれたりして死ぬエンドもある。
だが、その過程は知らない。だってやってないもん。
「(これならもっと調べるべきだった!)」
一瞬そう思うも、直ぐに現実的でないと気づく。
だって、誰が乙女ゲーの世界に転生すると予想できる。
転生の瞬間だって、普通なら二次転生なんてしないと思うだろ。普通ならまず転生しないけど!
「ちきしょ~!!なんで今まで気づかなかったんだよ!?」
叫んではいるが、頭の中ではすで理由は分かっている。
俺の外見のせいだ。
自分で言うのも何だが、今世の俺はそれなりに美形だ。
黒い髪に白いメッシュ。
肌はキレイで顔のパーツ一つ一つが整っている。
PVで見たようなチビデブハゲではない。
外見が原作とかけ離れていたせいで気づくのが遅れたのだ。
まあ、気づいたところで出来ることなんてないけど!
「(クソ、あの女神め……! なんてとこに転生させたんだ!?)」
俺はその辺にあった岩を思いっきり殴った。
あの駄女神……なんでよりにもよって踏み台なんかに転生させたんだ!?
他にも色々あっただろ!? なのに何でよりによってコイツなんだ!? 何かしたか俺は!?
「……いや、あの人を悪く言うのはいけないか」
息を整えて心を落ち着かせる。
そうだ、彼女は俺にチャンスをくれたんだ。
第二の人生という超破格の願いを女神様は何の代償も要求すること無く叶えてくれたのだ。だというのに彼女を恨むのはお門違いだ。
ここは運が悪かったと思って前向きに対処しよう。
こうなったら今以上に鍛え、何としてでも破滅フラグをへし折らなくては。
今の俺は生まれたてのガキ。そして妹もまだいない。
時間はたっぷりある。金も権力もだ。ならば今やることは一つ……。
「(……まぁ、対策するのはもっと先でもいいか」
ゆっくりと考えよう。
原作が始まるのは妹が16歳からだ。
まだ十代にすらなってないのに、十年先の事を考えるのは早すぎる。
時間はたっぷりあるのだから、考えるのは後でもいだろう。
大丈夫大丈夫、いきなり破滅するなんてありえないから。
ソレまでに鍛えよう
ソレまでに学ぼう。
ソレだけで充分だ。
その時の俺は、何も分かっていなかった。
自分がいかに楽観的な考えで、ソレがどれだけ無責任なのか。
何も見えず、何も考えず、何にも気づいてない
俺のバカさ加減がどれだけの人を殺すことになるのか、俺は気付こうともしなかった。