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悪徳領主と毒婦龍  作者: ハント
準備編
13/16

師匠百山

 なんか浪人っぽいオッサンがやって来た。

 屋敷の庭で、モモヤマと名乗る男は俺の前で正座をしている。

 無精髭にヨレヨレの袴。

 だらしない恰好だが、何か雰囲気がある。

 この人が俺の剣の先生になるモモヤマ先生だ。


「……アルコ殿。剣を教える前に、軽く注意しておこうと思います」

「……はい」


 先生が刀に手をかける。


 この世界では剣術といえば西洋剣がメインだが、刀もあるらしい。なので刀を選んだ。

 特に深い意味はない。

 まあ、こんな雰囲気のある人に教えて貰えるから正解だとは思うけど。


「剣術とは殺すための技術。遊び半分でやると大けがでは済まないことになります。ですので、努々ゆめゆめおふざけで刀を振り回さないようお願いします」

「はい!」


 すごい当たり前の事だった。

 いきなり真剣を渡さないとは思うが、木刀や市内などの練習用の得物も凶器としては十分な威力を発揮する。

 そんな危ないものを持つ以上、気を付けるのは当然のことだ。


「いい返事ですな。では…」


 先生何処からか丸太を用意し、俺に触るように言ってくる。


「これを斬るのですか?」

「えぇ、そうです」


 おいおいマジか。この丸太の厚み、俺三人分ぐらいはあるぞ。

 本当に切れるのか?


「アルコ殿、これからお見せするのはあくまで一端。まだまだ覚えて頂く技は山ほどあります」


 先生は息を整えながら、居合の態勢に入る。

 奥深くまで腰を落とすその様はまるで弓を限界まで引き絞るかのようだった。


 瞬間、魔力の爆発を感じ取った。


 爆発の発生源は先生から。

 同時、凄まじい速さで動き、気づいたら先生は既に刀を鞘に納めていた。


「………嘘だろ」


 気が付いたら、丸太が切れていた。

 切り口も綺麗で、全然角ばってない。

 明らかに射程距離外。いったいどんな魔法を使ったんだ?

 それが分からずに困惑していると、先生は深呼吸をしていた。


「……どうやって、切ったのですか?」


 驚く俺に先生は答えない。代わりに、またパチンと刀を鳴らす。

 瞬間、後ろにあった木の枝がすべて切られた。


 気付かなかった。

 先程のような魔力爆発も、独特な構えもない。

 気が付いたら終わっていた。先程とはまた違う速さがこの技にあった。


「(最初のは直線的な速さ、次は牽制用の早さといったとこか?)」


 技の分析をしていると、先生は木刀を俺に渡してきた。


「次は木刀を軽く振るってくだされ」

「あ、はい」


 木刀を正面から見ると体に隠れるかのように構え直し、掛け声と同時に振り下ろす。

 踏み込む力と体重を木刀に乗せ、更に魔力で筋力を強化。

 この一撃で案山子の脳天カチ割ってやる! 背的に当たらないけどねッ!


 バコォンと、木材が激しく衝突する音が響く。

 案山子サンドバックの根本が衝突部がメキメキと粉砕し、派手に吹っ飛んでいった。


「……どうですか?」

「……すごいな。しかし君の力なら吹っ飛ばすことなく叩き込めたのでは?」

「す、すいません!」


 自分ではいいと思ったのだがダメらしい。


「(けど師匠の言う通りだ)」


 剣とは吹っ飛ばすものではなく斬るものであり、吹っ飛ぶということは斬る衝撃が後方に逃げてしまうということだ。

 ダメージを無駄なく与えるには、吹っ飛ぶことなくしっかりとめり込ませなくてはならない。

 もっと鍛えねば。


「師匠、どうすればしっかりとダメージを与えられる剣を振るえるか教えてください!」


「……うむ」








 一瞬、獣を幻視した。


 獣は爪を横薙ぎに振るう。

 敏捷かつ力強く、そして鋭い一撃。

 獲物は獣の爪に耐え切れず、ポッキリと折れてしまった。


「(……凄まじい威力じゃッ!!)」


 さっき見せられた獣―――アルコの剣技。

 その威力に、彼は一瞬だけ見惚れてしまった。

 なんだあの威力は。子供の振るえる剣じゃない。デタラメにも程がある!


 アルコの折った案山子の脚に近づき、よく観察する。

 新品とは言い難いが、消耗はしてないはずの木材。

 おそらく成人男性が直接木刀で殴っても折れることはないだろう。


 まだまだ粗削りだが、才能の鱗片が感じ取れる。

 6歳程度のガキであの威力なのだから、大人に……いや、五年もあれば……。


 ゾクリと、百山の背筋が震えた。


「……貴族というのは羨ましいのぅ」


 貴族。

 強力な魔力を先祖から受け継いだ貴い者たち。

 権利、土地、財産、そして才能。

 平民にはないものを彼らは持っている。

 それは剣術においても同じである。

 平民は魔力を持たない。


 魔力持ちの平民も存在するが、貴族と比べたらその絶対数は絶望的に少ない。

 そのせいで平民は貴族にあらゆる分野で勝てないとされている。

 それがこの世界の常識だ。


 だから彼は貴族が嫌いだった。

 平民とは比べ物にならないほどに何もかもを持つ貴族。

 しかし何故だろうか……。


「これはどんな猛獣に育つんじゃ……!」


 何故か、年甲斐もなく。今回はワクワクしていた。


 金稼ぎのために渋々受けた依頼だったが、面白くなりそうだ。

 そう言いた()に彼は笑った。

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