表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪徳領主と毒婦龍  作者: ハント
準備編
12/16

妹が出来ました

「ドルフィナス。お前の兄のアルコだ」


 そういって微笑むお父様の後ろには一人の幼女がぽつんと立っていた。

 俺より二歳ほど下の女の子。

 この屋敷が初めてなのか、きょろきょろしている。


「ドルフィナスだ。今日からお前の妹になる。アルコ、長男としてしっかり面倒をみてあげなさい」


 そう言われて幼女は前へ進み出た。


「ドルフィナスよ!よろしくねおにいさま!」

「ああ、アルコだ」


 我が妹は元気いっぱいにお辞儀した。

 対する俺は少しぶっきらぼうに答える。


「……」


 俺と同じ藍色の髪は天然パーマなのかふんわりしており、思わず触りたくなる。

 丸々と大きい目は小動物みたいで可愛らしい。


「…というわけでこの子は今日からここに住むことになった」

「はい。でも何故いきなり? 義理の子なら兎も角、父上の子なら最初から一緒に住んで良いのでは?」

「……事情があったのだ」

「?」


 父上は強引に会話を終わらせてその場を去った。

 早歩きで誤魔化すかのように。


「……どういうことだ?」


 そんな父上の様子に俺は違和感を抱く。

 あの人は俺に対して甘々だ。なのに何であんな拒絶する態度を取る? そこまで触れられたくない事なのか?


「アルコ坊ちゃま、ドルフィナスお嬢様は遠方からの移動でお疲れです。ですので今日はもうお休みになります。ご親睦を深めるのは明日からでよろしいでしょうか?」


 妹の使用人らしき侍女がそう語る。

 さっきは元気が良かったので気付かなかったが、妹は疲れているように見えた。


「分かった。妹を頼む」

「了解しました」


 妹はそのまま侍女に促され与えられた寝室へと案内されていった。

 俺はソレを見届けることなく自室へと戻る。





「さて、どうするべきか……」


 自室で俺は妹の扱いについて考えていた。

 既に方針は決まっている。

 普通に妹と接してワガママな悪徳令嬢にならないよう注意するだけだ。


 俺が思うに、サイコパス等の精神的な疾患でもない限り、生まれついての悪党なんて存在しない。 

 兄として接し、両親の代わりに叱ったら性格は矯正されるはずだ。

 多少ワガママになるかもしれないが、何もしないよりはマシだとともう。


「(まあ、あの両親ならワガママになっても仕方ないか……)」


 俺は確信していた。あの両親には子供をちゃんと育てる才能がないと。

 二人とも俺を引く程溺愛しており、俺に非がある状況でも相手のせいに仕立て上げてありもしない責任を取らせようとする。

 情報源はお誕生パーティの時だ。俺はミスってジュースを零して他の子のドレスを汚してしまったのだが、あの親は何の注意もしなかった。

 その時は恥をかかずに済んだと思ったが、なんか周りの様子がおかしい。

 気になった俺はパーティに参加していた子たちの話を聞きまわった。


 なんとあの親、俺が四歳の頃に似たようなことをして注意するどころか、逆に子供とその親へクレームつけやがったという。

 これだけで終わりではない。なんと次は逆のことをされ、そのことで子供とその親へクレームつけやがったらしい。


 この話を聞いて俺は思った、あの親はダメだと。

 典型的なモンスターペアレンツである。そりゃそんな親のとこにいたらオルキヌス家の子供はあんな性格になるわ。


 ということで俺はその要因を潰すために自他共に厳しくしなくてはいけない。

 両親が百の甘さを見せつけるなら、俺はその十倍の厳しさを教える。

 しかし、ただ厳しく接しても人は従わない。


 人を動かすにはまず信用してもらわなくてはいけない。

 信用しない人間には子供すら従わない。これは生物として当然の防衛本能だ。

 ではどうやって信用を得るか、その結果出たのが彼女と一緒にいることだ。


 だから、尊敬できる兄を演じなくてはならない。


 ダサい真似は晒せない。

 もし劣っている兄だと思われたら、俺はもう彼女を叱れる存在ではなくなる。

 信頼しているからこそ、尊敬しているからこそ説教に耳を傾けるのだ。

 そのためには努力しなくてはならない。

 あの両親の代わりに自分が貴族としての見本を見せなくてはいけないのだ。


「(……前途多難だな)」


 正直言って自信ない。


 前世でも俺は決して尊敬できる人間とは言えないような人間だった。

 ただダラダラと一日を過ごし、仕事もテキトーでハイハイ頷くような指示待ち人間だった俺が、転生したからといっていきなり変われるとは到底思えない。

 けど、やるしかないんだ。


 時間はたっぷりある。

 親のとはいえ、金も権力も人脈もある。

 前世とは比べ物にならないほどの好待遇。これで出来ないわけがない。


 まずは鍛えよう。

 子供は強いものが好きだ。ならドルフィナスも好きに決まっている。

 俺自身強くなりたいと思っていた。なら丁度いいじゃないか。

 強くなって夢果たして、序に妹から尊敬される。いい話じゃないか。


「いっちょやるか!」


 明日からがんばるぞい!






「というわけで二人とも、ここで遊んでなさい」

「はい?」


 翌日、俺たちは朝食の後に庭へ連行された。


「(やっべー! 全然プラン考えてねえ!)」


 マズいマズいマズい!!

 こうなることは予想してたのに、全く対策していなかった!

 昨日は十分時間があったのに、なんで俺は何も行動してなかったんだよ!?


「(……この癖なかなか消えないな)」


 俺はもう『僕』じゃないんだ。もう逃げる僕から卒業しなければ……。


「ねえねえ、お兄さまって強いってお父さまから聞いたのだけど本当?」

「……え?」

「お父さまから毎日剣の修行をしてるって聞いたの! だから強いんでしょ?」


 剣の修行? ……まさかあのごっこ遊びのことか?


「ねえねえ、剣を振ってるとこ見せて!」

「(……どうしようか?)」


 キラキラと視線を輝かせるドルフィナスに対し、俺はどうすべきか悩んだ。


 アレを剣の修行というには抵抗はある。

 ごっこ遊びごときで強くなれる筈がないし、何よりそんなものを披露しても恥ずかしいだけだ。

 しかしだからといって断るのもかっこ悪し……。


「(……いや、やってみるか)」


 相手は三歳児だ。ちょっと工夫すれば騙せるだろう。例えば、強化魔法で身体や感覚をブーストさせたりしてな。


「いいよ。じゃあ見せてあげる。付いてきな」

「うん!


 俺は妹を剣技(笑)を披露するために訓練所へ案内した。




「それじゃあ。俺の剣技(笑)をお見せしよう」

「わーい!」


 木刀を取り出してブンブン振り回す。


 まずは簡単な破壊力から。

 サンドバック用の案山子かかしに向かって木刀を振り下ろす。

 全身に魔力を流し込んで筋力を強化させ、発生したパワーを一点に集約して叩き込んだ。

 バァンと派手な音を立てながらぶっ壊れる案山子。


「す、すごーい! すごい音したわ!」


 ソレを見てドルフィナスは手を叩いて喜んでくれた。

 よし、掴みは好調。なら次はもっと派手にやろう。


 次は剣のスピードだ。

 石を数個拾って上に投げる。

 ある程度の高度に達すると同時に落ちていくそれらを、俺は木刀で全て切り落としてやった。

 無論、そんな剣豪な真似なんて素の状態では出来ないので、動体視力を中心に強化した状態だ。


「すごいすごいすごーい!」


 ぱちぱちと手を叩いて喜んでくれるドルフィナス。

 よしよし、いい感じだ。この調子なら妹に尊敬を勝ち取れそうだ。


 最後は剣を構え、素振りで強さを表現する。

 魔力を流し込み、一気に爆発させる!


「はあ!」


 上段から振り落とされる木刀。

 標的の存在しない得物は空を裂き、風となって妹の髪を仰いだ。


「すごい! すごいよお兄さま! 本当に騎士様みたい!」


 そう言いながら抱き着いて来るドルフィナス。

 よし、これで妹に兄の威厳を示すことが出来たな。コレを期にゆっくりと信頼関係を築こうか。

 そんなことを考えてると、何処からかパチパチパチと拍手が聞こえた。

 振り向けば両親とメイド達がずらりと並んでいた。


「素晴らしい! まさかこれ程の才能が有るなんて知らなかったぞ!」


 父上が物凄い勢いで駆け寄ってきて、俺を抱き上げる。


「それじゃあ明日から剣の修行だ! 何が何でもお前に剣の師匠をプレゼントしてやる!」


 こうして、俺は妹から強い兄と尊敬されると共に、剣の師匠を手に入れることに成功した。





 オルキヌス家領内の馬車。

 その中に一人の男がいた。

 袴のような着物を着用しており、風貌は侍………いや、浪人という格好だった。

 だらしなく気崩した着物と無精ひげ。

 しかし目つきは鋭く、もし場所が場所なら犯罪者に見間違えてしまう。


「ふん、伯爵家にしては辺鄙な街じゃな」


 男の名前は百山(モモヤマ)

 アルコの剣の師範となる男だ。


 アルコの父、カイトンは武術の腕はあるものの、感覚派のため教えることには向いてなかった。また頭もよろしくないので子供にかみ砕いて説明することも出来ない。

 カイトン以外は剣に疎く、護衛たちもカイトン自身が強いせいで碌なものを揃癒えていない。


 それで彼らはテキトーに凄そうな剣士を選んだ結果、彼がアルコの師範となった。

 この、剣術指南として致命的な欠点がある。

 腕前は一流で教えるのもうまい。しかし、その内容はかなり苛烈だった。


 彼には理念がある。

 剣術という他者の命を奪う前提の技術を使う以上、自身もまた殺されるかもしれないという危険性を理解すべきであると。

 しかし、お貴族様にその理念は理解出来なかった。


 貴族達が欲する剣術とは見栄の張れる剣術であって、命の奪い合いなんて泥臭いものは望んでない。そんなものは傭兵や軍隊の仕事であって、お貴族サマは華やかな剣をご所望なのだ。

 端的に言えば、需要が合ってないのである。


「(そんじゃあ、テキトーにやってテキトーに返してもらいますか)」


 この男とて人間である。生きていくためには金が必要であり、そのためにはある程度の現実とのすり合わせはしなくてはならない。


「半年ぐらい派手な剣術見せて指導のフリしたら飽きるだろう」


 聞く限り、相手は子供だ。なら地味な訓練なんてやってられないはずだ。

 しかし直ぐに帰されてしまっては金が稼げない。なので華やかな剣術を披露してしばらくは家にいさせてもらうことにした。


「さて、稼がせてもらおうか、お坊ちゃま」


 百山がアルコの才能を分からされるまで、あと一日。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ